「今さら、真実など知ってどうする。もう、我らに理解も和睦も必要ない。ただ、どちらが捕食され、捕食するかのどちらかだ」

「俺は、その関係性を変えたい思てる」

 光明さんの答えを聞いた紫苑は、仰け反って高らかに冷笑する。

「ふふっ……ははっ、おかしいことを言う。お前たち陰陽師は、散々あやかしを狩ってきただろう? 我々が何度も歩み寄ろうとしたのに、一方的に。身内を殺されそうになったから、取引を持ちかけようという魂胆が見え見えだ」

「取引ちゃう……」

 少し前の光明さんも、人間の安全のためにあやかしを狩るのは当たり前だと口にしていた。

偏った価値観を持っていた時期は否定できないので、ぐうの音も出ないのか、それっきり光明さんは唇を噛みしめてしまった。

「さて、猫又の姫、それから従者殿。我々は同胞に手をかける気はない。こちら側につくならば歓迎するが、そうでないなら立ち去るといい。でなければ、誤って毒牙にかけてしまうやもしれない」

 ……我々? 
 その疑問はすぐに、大量の土蜘蛛が現れたことで消える。

 彼らは紫苑のように人の姿ではなく、目玉が六つある巨大な蜘蛛の姿をしていた。その大群に気圧されていると、タマくんがすっと私の隣にやってくる。

『この数の土蜘蛛が住めるほどの巣となると……この邸の下、ほとんど土蜘蛛の住処だ』

「そんなにいるの? とにかく、あの土蜘蛛……紫苑は私たちには寛容みたいだし、私たちから話してみよう」

『……きみがそれを望むなら、止めないよ』

 前に出ると、タマくんは私を守るように寄り添った。

「あの、私たちはあなたたちと陰陽師をどうこうしようとする気はないんです。でも、だからって陰陽師につくわけでもない。ただ、お互いが歩み寄るために話だけでもしてもらえませ……」

 言いかけているところで、ビュンッと糸が飛んでくる。すかさずタマくんが食い千切って守ってくれたが、私は尻餅をついてしまった。

「い、いきなりひどいじゃないですか!」

『美鈴、そんなこと言ってる場合じゃないよ』

 タマくんの苦い声に返事をする余裕もなく、土蜘蛛たちがいっせいに襲いかかってくる。

「お嫁様! 水よ……凍てついて切り裂け!」

 水珠が氷の礫で、私に迫りくる糸を裂いていった。

「水珠、ありが──」

「礼を言ってる場合か! 爆ぜろ!」

 後ろから赤珠の声が聞こえて振り返ると、私の目の前で今にも噛みつかんとしていた土蜘蛛が丸焦げになる。

「せ、赤珠もありがとう!」

「ふんっ、手のかかる嫁だな」

「え、私のこと嫁って認めてくれるんだ? 赤珠と心の距離が縮まってるっ」

「寝言は寝て言え!」

 やいやいと赤珠と軽口を叩き合っていたら、土蜘蛛がいっせいに糸を吐いた。

「きゃああっ」

 べたべたしていて、粘着力のある糸に拘束される。

 ポン助は宙に吊るされたまま「ふきゅうっ」と声をあげて昇天し、水珠と赤珠は大量の糸に押し潰され、地面にうつ伏せに倒れていた。

タマくんも、牙が入らないほどの糸の量に、お手上げ状態。その中で光明さんだけは結界を張り、攻撃を弾いたようだった。