「なあ、ほんまに倒さなあかんのか?」

「え……?」

「喋れへんでもええ、操られとってもええ、ああして動いてる親父とお袋が見られるんやったら、このままでも……」

 光明さんの言葉を遮るように、ポン助が糸に弾かれて「うわああああっ」と宙を舞う。

『ポン助! ぐっ、しまっ──』

 ポン助に気を取られたタマくんも糸に巻きつかれ、動きを封じられてしまった。

『く、うう……ガルルルッ』

 糸を噛み千切ろうとタマくんが暴れるも、糸のほうが頑丈だったようだ。糸で切れたのか、タマくんの口端から血が流れる。

「ポン助っ、タマくん……!」

 どうしよう、迷ってる時間なんてない。光明さんがどうしたいかを決めなくちゃ、ふたりは反撃ができない。傷を負うだけ……。

 私は拳を握り締め、光明さんに向き直る。

「光明さん、光明さんはここになにをしに来たの? 過去の思い出に浸たるため?」

「…………」

「うんとかすんとか、言ったらどうなの!」

 責めたいわけじゃないのに、光明さんのこんならしくない姿を見ていたら、なんでか腹が立って……。

「光明さんは自分の子供や孫……その先の命が幸せに生きていけるような選択をするために、ここに来たんでしょう!?」

 そうだって言って。このまま屍と一緒にここにいたいだなんて、言わないで……。

「光明さんのそばには、私や水珠や赤珠、タマくんやポン助がいるのに……っ。私たちと未来を生きたいって、そう思ってよ!」

 私の叫びだけが、辺りに響いている。

私の思いが一方通行であることを物語っているようで、胸が切られるように痛んだ。

「……こう、めい……」

 突然、お父さんが光明さんの名前を呼んだ。

弾かれたように顔を上げ、「親父……」と声をもらした光明さんは、どこか縋るような目でお父さんを見つめている。

「光明……助けて、くれ……」

 手を伸ばすお父さんに向かって、光明さんは「親父っ」と身を乗り出す。

 お父さんに手を伸ばす光明さん。その手とは反対側の手を、私は掴んで引き留めた。 

「あれは、本当に光明さんのお父さん?」

「どう見たって親父やろ!」

 私を振り返って悲痛に訴える光明さんの目には、涙が浮かんでいる。

繋いだ手から光明さんの悲しみが流れ込んでくるようで、私の視界も潤んだ。

「光明……私たちを助けて……ここにいる、あやかしたちを殺して……」

「お袋……っ、俺は……っ」

 私とお母さんを交互に見た光明さんは、わなわな震える唇を噛む。乾いた唇から赤い血が滲んで、頬を伝って流れる涙と混じり合った。

 光明さんの心が泣いて、血を流している。

「あの人たちが、お父さんとお母さんだって言うなら……」

 私は腕を伸ばして、光明さんの目尻を指で拭った。

「どうして泣いてるの?」

 本当はわかってるんでしょう? あの人たちが、本当のお父さんとお母さんじゃないってこと。

「それはっ……」

「光明さん、生きるって……なんなんだろうね。ただ目の前で動いて、話していれば、それで生きていることになるのかな?」

 光明さんは息が詰まったように固まり、瞳に惑いを映した。