『美鈴、怪我はない?』

 私は狼サイズの猫又の姿になったタマくんの背にいた。

「タマくん! 助けてくれたの?」

『うん、でも咄嗟のことだったから……あそこから連れ出せたのはきみだけだ』

 屋敷の屋根に降り立ち、タマくんは庭を見下ろす。そこには身体に糸が巻きついて、身動きが取れないでいる光明さんの姿が。

「光明さんっ、早く助けないと!」

『本当に助けられたいと思ってるのかな?』

「え……それは、そういう……」

『今の攻撃、安倍さんなら結界で防げたはずだ。なんたって、稀代の陰陽師なんだから』

 タマくんは、なにが言いたいの? ううん、本当はわかってる。光明さんは避けられなかったんじゃない、避けなかったんだ。

「光明さんにとって、ふたりは敵じゃないから……」

 ──たとえ、土蜘蛛が操る屍だったとしても。

「ぐうう、うう……」

 苦しさに歪む光明さんの表情には、悲愴が滲んでいる。

「でも、このままってわけにはいかないよ……。そうだ、光明さんが傷つけなくても済むように、私の魔性の瞳でお父さんとお母さんの動きを止められないかな?」

『それは無理だよ。きみの力は意思のある生物には作用するけど、死者には効かない』

「ならどうしたら……って、なんで私の力のことにそんなに詳しいの?」

『今はその話をしてる暇、ないんじゃないかな。とにかく、安倍さんを助けたいなら物理的に糸を切るしかないね』

 ……はぐらかされた?

 これまでもこうやって、うやむやにされてきたような気がする。けど、今は光明さんを助けるほうが先だ。

「ポン助に任せるですポン!」

 タマくんの尻尾にしがみついていたポン助が、いきなり 「変化!」と空中で一回転する。

その身体はサッカーボールサイズのカニに化け、一直線に光明さんの元へ落ちていき……。

「チョッキン!」

 光明さんとご両親の間に伸びている糸を断ち切った。

 解放された光明さんは、「げほっ、げほっ」と咳き込みながら、地面に両手をつく。

 私もタマくんと一緒に地上に降り、すぐに光明さんのそばに行く。

「光明さん、大丈夫?」

「……俺は……俺は、抵抗できひんかった」

「当然だよ、だってふたりは光明さんの大切な人の姿をしてるんだから……」

「俺だって、本当の親父とお袋ちゃうって頭では理解してるんやで。やけど、やっぱし……生きとってくれたらって思たら……反撃なんて、できひんかったんや」

 光明さんの……心が軋む音がする。光明さんのために、私にできることはなんだろう。

 目の前にいる、光明さんのご両親を見つめる。

ふよふよと糸を漂わせ、こちらを攻撃する隙を窺っているようだった。

「姫様はオラが守りますポン!」

『早いとこ、結論を出してくれると助かるよ』

 ふたりが私たちを守るように前に立ち、繰り出される糸から守ってくれる。

 私が代わりに、光明さんのお父さんとお母さんを倒せばいいの? きっと、そんなことをしても、なんの解決にもならない。

 だからといって、光明さんのご両親の屍をこのままにはしておけない。