給食参観が終わってまた保育園から一度出て、夕方になってから拓斗と海翔で双子たちを改めてお迎えに行った。

今日はふたりとも休みを取っているので、いつもより早い時間だ。
まだ子供たちも多い。

拓斗たちが双子を引き取ると、ちょうどもう一組の双子の優菜と愛菜も美涼に連れられて帰るところだった。

優菜が遥平に手を振り、愛菜が心陽に手を振っている。
大人同士も会釈して別れた。

このときに、拓斗の気持ちが双子の方ではなく、海翔に向いていたら、このあとの話は少し変わっていたかもしれない。

しかし、実際には親バカ真っ最中の拓斗の心は、双子たちの〝お腹の減り具合〟にひたすら向けられていた。

「さよーならー」と和香に双子たちが挨拶して外へ出る。

拓斗が両手に双子の手を握りながら、真剣な顔で心陽に質問した。

「俺がいても恥ずかしくなかっただろ?」

「はずかしかった」
と心陽がどストレートに答えた。
堪える。

「やっぱり恥ずかしかったのか」

「だってたくと、にやにやしてこっちずっとみてるし、おきゅうしょくたべるのはやいし」

「にやにやって、こはるがかわういから仕方がないじゃんか」

心陽が拓斗を半眼で睨んだ。

「〝かわうい〟とかいういいかたがキモいのっ」

「どこの親も同じふうに思ってるものだよ! でも、うちの子がいちばんかわういの! あと給食食べるのが速かったのは、すまん」

早食いなのは元営業マンの悲しい性だった。

海翔が遥平を覗き込む。
「遥平は僕たちがいてどうでしたか」

「うれしかった」と遥平は、にぱっと笑った。

遥平の平和な笑顔に癒やされつつ、拓斗は質問を変える。

「給食って毎日あんな量なのか」

「うん」と心陽。

「知らなかった。……お腹減らないのか」

「だいじょうぶ。おやつもあるし。きょうはちいさなドーナツだった」
と心陽は何てことない顔をしていたが、拓斗の本当の心配は遥平である。

遥平はお腹が空いたら本当に活動停止してしまうのだ……。

「遥平、本当に足りてるのか」

「うん」

「これからスーパーに行って、お刺身の舟盛りとかステーキ肉とか唐揚げとかがんがん買って帰ろうか?」

「兄さん、やめてください。まだ時間が早いので値引きシールも貼ってないでしょうし」と海翔が平坦な声で止めに入る。

「大丈夫。お金はさっき下ろした。何なら蟹も海老もがんがん買おう。せっかく俺たちも休みなんだし」

「大漁に沸く漁港ではないのですから、やめてください」

海翔が冷静にツッコミを入れている側で、心陽と遥平は拓斗の身体を挟んで顔を見合わせていた。

「からあげはおきゅうしょくでたべたからいらない」

「よーちゃんも。おさしみもすきだけど、たまにたべるからおいしい」

「はーちゅんもそうおもう」

「何ていい子たちなんだ……」と拓斗はちょっと涙がにじむ。
「遥平なんて、あんなにお刺身大好きだったのに。空腹になるとフリーズしてたのに」

「いまでも遥平は空腹が限界突破すると全機能フリーズは変わりませんが」
と海翔が冷静に突っ込んだ。

「心陽だって、我が強くてわがままで駄々っ子だったのに、こんなに素直になって」

「心陽が文句を言うときは、だいたい兄さんがキモいとかですけどね」

拓斗と海翔は冷静にお互いの顔を見つめる。

「そう言われると、こいつらあんまり変わっていないようにも思える」

「人間というものは少しずつ成長していくものです」

「そっか」拓斗は頭を搔いた。

「何が夕飯に食べたいですか?」
と海翔が改めて双子に尋ねると、心陽が元気よく答える。

「たくととかいとのつくったごはんがいい」

さらに遥平がちょっと考えて、こう答えた。

「きょうはおやこどんがたべたい」

拓斗が思わず聞き返す。

「親子丼でいいの? お金、今日ならあるよ?」

「おやこどんがいい」

「はーちゅんもっ」

双子の口の中はすでに親子丼になってしまっているようだ。

何だかきゃいきゃい笑って今日の夜を楽しみにしている目になっていた。

かくして今夜は「親子丼」となる。

材料は家にあるので買い物も省略。

「はーちゅんおてつだいしたい」
と心陽が手をあげたので、拓斗と一緒にお米を洗う。

こぼれそうになる米粒を拓斗がうまくキャッチ。

水の分量をふたりで確かめて炊飯器にセットした。

いつもより早めに家に帰れたことが双子たちには楽しいみたいだった。

楽しいということははしゃぎたくなるということで、心陽と遥平がふたりで家の中で走り回り始める。
あまりにうるさくなって拓斗に叱られ、シャワーに退散した。

拓斗たちも夕食の準備の前にシャワーを済ませてしまう。

シャワーを終えた双子は、リビングでじゃんけんを始めた。

「じゃんけんぽんっ」

「しっぺ、でこぴん、ばばちょっぷ、ぞうきん、ふじさん、ぜーんぶ」

あっちむいてほいとしっぺなどの罰が融合したものらしい。

最初のうちはきゃあきゃあ楽しんでいたのだが、心陽のしっぺが強かったようで、もめだした。

「はーちゅんのいまのいたいよっ」

「そんなことないよっ。さっきのよーちゃんのでこぴんのほうがいたかったもんっ」

しばらく放っておいたが、だんだん言い合いがエスカレートしてくる。

「こーら」と拓斗は介入を決めた。
「ふたりともケンカするなら親子丼やめるぞ」

拓斗のひとことで、まず、食べること大好きの遥平が折れた。

「ごめんなさい」

「心陽は?」

「ごめんなさい……」

拓斗はふたりの頭を撫でると、

「じゃあ、ふたりにも手伝ってもらおうかな」

心陽たちは「うん」と頷いて立ち上がった。