停止した拓斗から、よいしょよいしょと抜け出すと遥平は洗い物が終わった海翔の服の裾を引っ張った。
「かいとにいちゃん、ごはんのあとのでざーと」
「はいはい」と海翔が手を拭きながら食後の甘い物を用意にかかる。
「今日はミニシュークリームです」
「わぁぁ……」と、食べることが大好きな遥平が目を輝かせる。
双子たちは父親がどちらであるか判明する前から、心陽は「たくと」「かいと」と呼び、遥平はそれぞれ「にーちゃん」を付けて呼んでいたが、それはいまも続いていた。
拓斗は〝パパ〟でいいとしても、拓斗の弟でまだ二十代の海翔を〝おじさん〟呼びするのが双子たちにも微妙なのかもしれない。
海翔が紅茶を淹れ、双子たちが協力して冷蔵庫からミニシュークリームのパックを取り出した。
値引きシールが眩しい。
「おつとめひんだ」と心陽がどこで覚えたか、その値引きシールの正体を言い当てた。
「はーちゅん。おつめとひんって、なに?」と遥平が質問する。
〝はーちゅん〟とは心陽を指していた。
こはる、こはるちゃん、はるちゃん、はーちゅんの変化だ。
「おつめとひんじゃなくて、おつとめひん」
と心陽が遥平の言い間違えを訂正しつつ、説明する。
遥平の言い間違えも心陽のお姉さんぶった説明の様子もとてもかわいらしいのだが、先ほどの「きもいっ」の一撃を食らった拓斗は自分の椅子に座ったまま、がっくりと落ち込んでいた。
「はいはい。紅茶が入りましたよー」
紅茶と言ってもティーバッグだ。
大人たちはストレート。
子供たちは舌を火傷しないようにぬるめのミルクティーだった。
「みるくてぃー、おいしい……」と遥平がにぱっと笑う。
心陽は一生懸命、ミニシュークリームのパックを開けようとしていた。
「兄さーん。あんまりひとりでふさぎ込まれても、かえって空気悪いんですけどー?」
「ううっ……」
「ほら。双子たちが一生懸命ミニシュークリームのパックを開けようとがんばってますよー」
海翔の言うとおり、心陽たちはまだパックを開けるのに格闘している。
「かわいいよな……」と拓斗が遠い目をしていた。
「かわいいですね」と海翔が静かに紅茶を啜る。
「……俺さ」と拓斗が小声で話し始めた。
「はい?」
愚痴の続きかと海翔は思ったが、予想した方向とはずいぶん違う内容だった。
「こいつらふたりが生まれたばかりのときには、一緒にいてやれなかったじゃんか。そりゃ、玲奈が俺に内緒にして産んだからっていうのはあるだろうけどさ」
〝玲奈〟というのは双子たちの母親の名前である。
「ええ」と海翔が相づちを打った。
心陽がほとんど力尽くでパックをむしるように開け始めている。
「その分、四歳になるまで――もうすぐ五歳だけど――それまでの愛情を思い切り注いであげたいって思うんだけどさ。……何かうまくいってねえな」
拓斗がやや癖のある茶髪の頭を搔いた。
「――不器用ですねぇ」
「え?」
「――ほら、心陽。僕に貸してごらんなさい」
海翔に言われて、心陽がミニシュークリームのパックを差し出す。
「はんぶんはあいた」
というか、半分ほど裂けていた。
「もっとデリケートに扱わないと。いっぺんにやろうとしたら壊れてしまいますよ」
双子たちが「はーい」と返事する。
けれども、拓斗には自分に向けて言われているような気がした。
「海翔。それって……」
パックでまだ繫がっているところを器用に外して、海翔はミニシュークリームのパックを開いてみせる。
遥平が無言で目を輝かせていた。
「はい、どうぞ」
「いただきますっ」と心陽。
「いただきます」と遥平。
ふたりが早速手を伸ばしたところで、海翔が付け加える。
「いっぺんに口に入れてはいけませんよ。一度にひとつずつ。ちゃんと飲み込んでから、次のを食べてください」
「分かった」と心陽が答え、遥平は無言で大きく頷いた。
いっぺんに入れてはダメ。
一度にひとつずつ……。
拓斗は頭をばりばりと搔いた。
「かいとにいちゃん、ごはんのあとのでざーと」
「はいはい」と海翔が手を拭きながら食後の甘い物を用意にかかる。
「今日はミニシュークリームです」
「わぁぁ……」と、食べることが大好きな遥平が目を輝かせる。
双子たちは父親がどちらであるか判明する前から、心陽は「たくと」「かいと」と呼び、遥平はそれぞれ「にーちゃん」を付けて呼んでいたが、それはいまも続いていた。
拓斗は〝パパ〟でいいとしても、拓斗の弟でまだ二十代の海翔を〝おじさん〟呼びするのが双子たちにも微妙なのかもしれない。
海翔が紅茶を淹れ、双子たちが協力して冷蔵庫からミニシュークリームのパックを取り出した。
値引きシールが眩しい。
「おつとめひんだ」と心陽がどこで覚えたか、その値引きシールの正体を言い当てた。
「はーちゅん。おつめとひんって、なに?」と遥平が質問する。
〝はーちゅん〟とは心陽を指していた。
こはる、こはるちゃん、はるちゃん、はーちゅんの変化だ。
「おつめとひんじゃなくて、おつとめひん」
と心陽が遥平の言い間違えを訂正しつつ、説明する。
遥平の言い間違えも心陽のお姉さんぶった説明の様子もとてもかわいらしいのだが、先ほどの「きもいっ」の一撃を食らった拓斗は自分の椅子に座ったまま、がっくりと落ち込んでいた。
「はいはい。紅茶が入りましたよー」
紅茶と言ってもティーバッグだ。
大人たちはストレート。
子供たちは舌を火傷しないようにぬるめのミルクティーだった。
「みるくてぃー、おいしい……」と遥平がにぱっと笑う。
心陽は一生懸命、ミニシュークリームのパックを開けようとしていた。
「兄さーん。あんまりひとりでふさぎ込まれても、かえって空気悪いんですけどー?」
「ううっ……」
「ほら。双子たちが一生懸命ミニシュークリームのパックを開けようとがんばってますよー」
海翔の言うとおり、心陽たちはまだパックを開けるのに格闘している。
「かわいいよな……」と拓斗が遠い目をしていた。
「かわいいですね」と海翔が静かに紅茶を啜る。
「……俺さ」と拓斗が小声で話し始めた。
「はい?」
愚痴の続きかと海翔は思ったが、予想した方向とはずいぶん違う内容だった。
「こいつらふたりが生まれたばかりのときには、一緒にいてやれなかったじゃんか。そりゃ、玲奈が俺に内緒にして産んだからっていうのはあるだろうけどさ」
〝玲奈〟というのは双子たちの母親の名前である。
「ええ」と海翔が相づちを打った。
心陽がほとんど力尽くでパックをむしるように開け始めている。
「その分、四歳になるまで――もうすぐ五歳だけど――それまでの愛情を思い切り注いであげたいって思うんだけどさ。……何かうまくいってねえな」
拓斗がやや癖のある茶髪の頭を搔いた。
「――不器用ですねぇ」
「え?」
「――ほら、心陽。僕に貸してごらんなさい」
海翔に言われて、心陽がミニシュークリームのパックを差し出す。
「はんぶんはあいた」
というか、半分ほど裂けていた。
「もっとデリケートに扱わないと。いっぺんにやろうとしたら壊れてしまいますよ」
双子たちが「はーい」と返事する。
けれども、拓斗には自分に向けて言われているような気がした。
「海翔。それって……」
パックでまだ繫がっているところを器用に外して、海翔はミニシュークリームのパックを開いてみせる。
遥平が無言で目を輝かせていた。
「はい、どうぞ」
「いただきますっ」と心陽。
「いただきます」と遥平。
ふたりが早速手を伸ばしたところで、海翔が付け加える。
「いっぺんに口に入れてはいけませんよ。一度にひとつずつ。ちゃんと飲み込んでから、次のを食べてください」
「分かった」と心陽が答え、遥平は無言で大きく頷いた。
いっぺんに入れてはダメ。
一度にひとつずつ……。
拓斗は頭をばりばりと搔いた。