プロローグ
夕食が終わり、食器を流しにつけると奥崎拓斗は星野心陽と星野遥平というふたりの子供の背後に近づき、しゃがみ込み、思い切り抱きしめた。
「こはるー、よーへーっ」
やや茶色がかった髪色の頭を、四歳児ふたりの小さな背中にすりすりしている。
「みぎゃっ!?」
「あー!?」
捕縛された女の子の心陽が猫のように、男の子の遥平はのんびりと悲鳴を上げた。
反応こそ違えども顔はよく似ている。
心陽と遥平は双子なのだ。
拓斗は双子を抱きしめ、頰ずりしながら、まだまだ細い骨格とほのかな体温と妙に肌触りのいい子供用パジャマの感触を味わっている。
元気のいい心陽は逃走を試みるがしっかり押さえつけられ、おとなしい遥平は最初からされるがままになっていた。
「ふたりとも何てかわいいんだ。――我が子ながら」と、拓斗がしみじみと呟いた。
拓斗は茶色の髪に整った顔立ち、健康そうな肌色の若い男で、子供たちの父親というよりまだまだ子供たちと一緒に遊んでいる方が似合っている雰囲気だった。
その拓斗に抱きしめられてひたすらじたばたしている心陽が〝口撃〟に転じる。
「たくとのバカ、へんたい! はなしてっ!」
「変態とは何だ。父親に向かって」
「へんたいなパパはいらないっ」
がーん、という音が聞こえてきそうなほどのショックな面持ちで拓斗の動きが止まった。その隙に心陽が逃げ出す。
残された遥平は器用に身体の向きを変えると、拓斗の頭をなでなでした。
「たくとにーちゃん、よしよし」
「おお……遥平っ」
拓斗が遥平をきつく抱きしめ、「わああ!?」という遥平の穏やかな悲鳴があがる。
その隙に心陽は、流しで洗い物をしていた黒髪にメガネの真面目そうな色白の男、奥崎海翔のデニムに隠れた。
その海翔が洗い物の手を休めずに冷ややかな一瞥を拓斗にくれる。
「兄さん、連日の熱心な親バカっぷりのところ申し訳ないのですが、洗い物を手伝ってください」
「イヤだ。この子たちを抱きしめていたい」
拓斗が口をへの字にして反論した。
海翔は実の兄のわがままにため息をつく。
数カ月前、この双子たちはゆえあって母親の元を離れ、拓斗と海翔のところへ単身乗り込んできた。
もともとこのアパートには拓斗と海翔の兄弟で住んでいて、そこへ双子たちがやってきた形になる。
最初は拓斗の子なのか海翔の子なのか、不明ではあったのだが、いろいろあった末に拓斗の子供であると判明したのが、つい先日のこと。
ちなみに双子の母親は拓斗と別れたあとに妊娠の事実に気づき、ひとりで双子を産んだのだが、現在は拓斗が勧めてくれた夢の実現のために海外で料理修行をしている。
自分が正式な父親なのだと分かった日から、着々と拓斗の親バカは進行していった。
仕事から帰ると毎日スマートフォンで最低十枚は写真を撮る。
気がつけば双子をハグする。
頰をはむはむしようとする……。
「いい加減にしておかないと、逆に嫌われちゃいますよ?」
晴れて父親ではなく叔父であると判明した海翔が、洗い物をしながら無慈悲に告げる。すりすりしていた拓斗の動きが止まる。
「そそ、そんなことあるわけ――」
心陽が海翔の影から顔をひょっこり出した。
拓斗に似ている茶色の髪に長いまつげの、将来が楽しみな心陽が〝ぷんすか〟といった風情で拓斗に言い放つ。
「たくと、きもいっ」
その瞬間、拓斗の世界が再び止まった。
夕食が終わり、食器を流しにつけると奥崎拓斗は星野心陽と星野遥平というふたりの子供の背後に近づき、しゃがみ込み、思い切り抱きしめた。
「こはるー、よーへーっ」
やや茶色がかった髪色の頭を、四歳児ふたりの小さな背中にすりすりしている。
「みぎゃっ!?」
「あー!?」
捕縛された女の子の心陽が猫のように、男の子の遥平はのんびりと悲鳴を上げた。
反応こそ違えども顔はよく似ている。
心陽と遥平は双子なのだ。
拓斗は双子を抱きしめ、頰ずりしながら、まだまだ細い骨格とほのかな体温と妙に肌触りのいい子供用パジャマの感触を味わっている。
元気のいい心陽は逃走を試みるがしっかり押さえつけられ、おとなしい遥平は最初からされるがままになっていた。
「ふたりとも何てかわいいんだ。――我が子ながら」と、拓斗がしみじみと呟いた。
拓斗は茶色の髪に整った顔立ち、健康そうな肌色の若い男で、子供たちの父親というよりまだまだ子供たちと一緒に遊んでいる方が似合っている雰囲気だった。
その拓斗に抱きしめられてひたすらじたばたしている心陽が〝口撃〟に転じる。
「たくとのバカ、へんたい! はなしてっ!」
「変態とは何だ。父親に向かって」
「へんたいなパパはいらないっ」
がーん、という音が聞こえてきそうなほどのショックな面持ちで拓斗の動きが止まった。その隙に心陽が逃げ出す。
残された遥平は器用に身体の向きを変えると、拓斗の頭をなでなでした。
「たくとにーちゃん、よしよし」
「おお……遥平っ」
拓斗が遥平をきつく抱きしめ、「わああ!?」という遥平の穏やかな悲鳴があがる。
その隙に心陽は、流しで洗い物をしていた黒髪にメガネの真面目そうな色白の男、奥崎海翔のデニムに隠れた。
その海翔が洗い物の手を休めずに冷ややかな一瞥を拓斗にくれる。
「兄さん、連日の熱心な親バカっぷりのところ申し訳ないのですが、洗い物を手伝ってください」
「イヤだ。この子たちを抱きしめていたい」
拓斗が口をへの字にして反論した。
海翔は実の兄のわがままにため息をつく。
数カ月前、この双子たちはゆえあって母親の元を離れ、拓斗と海翔のところへ単身乗り込んできた。
もともとこのアパートには拓斗と海翔の兄弟で住んでいて、そこへ双子たちがやってきた形になる。
最初は拓斗の子なのか海翔の子なのか、不明ではあったのだが、いろいろあった末に拓斗の子供であると判明したのが、つい先日のこと。
ちなみに双子の母親は拓斗と別れたあとに妊娠の事実に気づき、ひとりで双子を産んだのだが、現在は拓斗が勧めてくれた夢の実現のために海外で料理修行をしている。
自分が正式な父親なのだと分かった日から、着々と拓斗の親バカは進行していった。
仕事から帰ると毎日スマートフォンで最低十枚は写真を撮る。
気がつけば双子をハグする。
頰をはむはむしようとする……。
「いい加減にしておかないと、逆に嫌われちゃいますよ?」
晴れて父親ではなく叔父であると判明した海翔が、洗い物をしながら無慈悲に告げる。すりすりしていた拓斗の動きが止まる。
「そそ、そんなことあるわけ――」
心陽が海翔の影から顔をひょっこり出した。
拓斗に似ている茶色の髪に長いまつげの、将来が楽しみな心陽が〝ぷんすか〟といった風情で拓斗に言い放つ。
「たくと、きもいっ」
その瞬間、拓斗の世界が再び止まった。