夜、私は寝室前の縁側の柱に寄りかかり、夜風に当たっていた。

 翠は天界に呼ばれたとかで、数日神社を空けている。いつ帰ってくるかわからないのに、なんとなくこうして日付が変わるまで帰りを待ってしまう。

 私、どんだけ翠のことが好きなんだろう。

 ひとりで苦笑いしていると、襖が開く音がした。

「起きてたのか」

 大股で近づいてくる足音、振り返る前にドカッと隣に腰かける誰か。庭から視線を横に移すと、どこか沈んだ表情をしている翠がいた。そのそばには、徳利とおちょこと好物のお饅頭が載ったお盆もある。

「おかえりなさい」

 いつもと変わらない笑みを返した。翠になにかあったのだろうことは、ひと目見ればわかる。だからこそ、私は彼にとって変わらず安心できる居場所でありたいのだ。

「春になったからって、夜は冷えるだろ。てめえはもっと、自分の身体のひ弱さを自覚しろ」

 翠は私にバサッと羽織を投げる。頭に載っかったそれを取れば、翠ははだけた黒い着物の胸元に腕を入れ、切なげに夜空を仰いでいた。

「今回みてえに俺が隣にいられねえときは、てめえが自分を労(いた)われ」

 私は羽織に包(くる)まって、ちょんちょんと夜空を見上げている翠の腕を突く。すると翠は、こちらに目線だけを寄越した。

「これでよいですか、旦那様?」

「よいですか、じゃねえ」

 翠は私の鼻を摘まんだ。「ふがっ」と乙女の【お】の字もない反応をした私に、ずいっと顔を近づけて凄んでくる。