「翠様が言いたいのは、そういうことではないんじゃよ」

 振り返ると、長い白髪を後ろでひとつに束ね、白龍の文様(もんよう)入り白袴(しろばかま)を身につけているご老人──神主の宮光(みやみつ)吉綱(よしつな)さんがいた。

「吉綱さん」

「龍宮神社ではこれまでも巫女と龍神が婚姻したあと、神様のお子を宿した巫女がいたという記録が残っておる。じゃが、巫女は神力が強いというだけで人間じゃ。身籠ったお子の神力に耐えられず、例外なく亡くなっておる」

「……っ!」

 亡くなってる……! だから翠は、子供を作る必要はないなんて言ったんだ。

「翠様は天界最強の龍神様、そして静紀さんは神様をも癒やす強い神力の持ち主。間違いなく力の強いお子が生まれる。そうなったら、人の身体では耐えられんじゃろう。ゆえに神様と婚姻した巫女の妊娠は、ご法度とされてるんじゃ」

「そんな……」

 じゃあ私は、翠の子供は産めないんだ。

 妊娠しているわけでもないのに、私は自分のお腹に手を当てる。すると足元に、黒猫がすり寄ってきた。

〝彼〟は普通の黒猫ではない。金と青のオッドアイで、尻尾は四本に分かれており、その先には青い炎がメラメラと燃えている。

 そして、黒猫の身体がぼわっと青白い炎に包み込まれたかと思えば、学ランを着た中学生くらいの男の子に変化(へんげ)した。

 目にかかるほど長い前髪の下には、猫のときと同じオッドアイの瞳。その頭にはぴょこんと猫耳があり、お尻にも四本の尻尾。彼はあやかしのミャオ、見ての通り化け猫だ。