「い、痛いじゃないですか……。立ち上がるなら、立ち上がるって言っ──」

「無理に子供を作る必要はない」

 幸せな空気が一瞬にして、ぱちんっと弾けて消える。

 子供を作る必要はないって……どういう意味? 

「翠は、私との子供が欲しくないってこと?」

 これだけ一緒にいて、少しも望まなかった? 

 思い返せば、夫婦生活は主に翠の口の悪さが原因で喧嘩したりはするものの、なんだかんだ満たされていた。けれど、一度たりとも夜の営みはない。ただ、同じ部屋で眠るだけ。翠の抱き枕だった頃と大差ない。

 黙ったままの翠に、胸にはモヤモヤばかり溜まっていく。

「私は、翠の子供なら欲しい」

 さすがに傷つく。まさか翠が、子供はいらないタイプの夫だったとは……。いろんな夫婦の形があってもいいとは思うけど、私は翠とは違って子供が欲しい。生まれてくる子が神様でも人間でも、翠との間に誕生した命をいっぱい愛したいのに……。

 なんか、悲しくなってきた。

 泣きそうになって俯けば、ため息と同時に翠の手が私の頭に落ちてくる。

「俺の言い方が悪かった。てめえを……失いたくないから言ってる」

「失うって……いくら人間が弱くても、それは大げさだよ。確かに昔の出産は命懸けだったかもしれないけど、現代は医療も発達してるわけだし……」

 神様の翠からしたら、人間はよっぽど脆弱に見えるのかもしれない。……などと考えていたら、足音が近づいてくる。