「そろそろ、孫の顔も見たい頃合いだがな」

 神出鬼没、金の瞳に苧環(おだまき)色の長い髪をした幼女が縁側に腰かけている。

 狩衣装束(かりぎぬしょうぞく)を纏(まと)った彼女は平安時代に日本一の舞い手と称(しょう)された白拍子、静御前(しずかごぜん)だ。見てくれこそ二歳児だが、中身は三十歳の立派な大人の女性。そして本来ならば出会うはずのない、前世の私だ。

 彼女は人でありながら神様の力──神力を宿していた。その舞で神様の神力を高め癒やすことができ、彼女の生まれ変わりである私もその力を受け継いだ。

 静御前は転生するはずだったのだが、愛する人と添い遂げられなかったという未練があったために、魂の一部……欠片が地上に残ってしまったらしく、こうして目の前に存在している。とはいえ霊体(れいたい)で本来の姿を維持するのは疲れるようで、今みたいに幼女の姿でいることが多い。

「孫って……静御前は私のおばあちゃんですか」

 翠との子供かあ……。翠と婚姻して二年、私も二十七歳になった。意識してないわけじゃない。

 翠に似たら、さぞ美男美女になるんだろうな。どちらにせよ、翠の子供なら目に入れても痛くないくらい可愛いはず。

 でも翠との子供って、生まれてくるのは神様と人のハーフだよね? 翠みたいに龍に変わったりもするのかな? そうなったら、学校に通うのとか大変だろうなあ。そもそも、学校とか行かせていいのかな。私はどう育てていけばいいんだろう。 

 あれこれ妄想を膨らませていると、翠が予告なしにすくっと立ち上がる。おかげさまで翠の膝の上に載せていた私の頭は、ゴトンッと床に落下した。