「翠がそばにいてくれたから、ぐっすりだったんだなあ」

 思ったままに言えば、翠が息を呑むのがわかった。

 瞼に透ける白い光が微かに陰り、柔らかな感触が額に落ちてくる。目を開ければ、凛々しく美しい翠の顔が間近にあった。

「こんな毎日がずっと続くといいね」

「そんなに惰眠(だみん)を貪(むさぼ)りてえのか。俺の嫁は一年後には、豚か牛になってそうだな」

「嫁を豚と牛呼ばわり……。あのね、私は翠と平凡な日常を末永~く続けたいなって意味で……」

「そうだな」

 ふっと笑いつつ、翠があっさり肯定する。

「……え?」

 出会った頃より幾分かマシになったが、鬼畜な彼らしからぬ素直な返しだったので耳を疑った。

「前に、俺の言葉をそのまま受け取るなっつっただろうが。わかってる、自分の嫁の考えくらいな」

 翠の指が私の頬をくすぐる。私は「もう……」と口元を緩ませた。さすがは旦那様、私を喜ばせるのがうまい。