「起きたか」

 瞼を持ち上げると、昼間の縁側で私に膝枕をしてくれている旦那様と目が合った。

 人にはない頭の二本の角(つの)。燃えるような紅(あか)色をした切れ長の鋭い目は、私を見つめるときに柔らかく細められる。その仕草がたまらなく好きで、私は彼の赤い髪に手を伸ばし、指を差し込んだ。

「……おはよう、翠」

 私が翠と夫婦になって、いくらかの月日が流れた。舞もそれなりに上達し、今日も私は世界でいちばん愛しい神様と、この神社にいついている。今やここが、私たち夫婦の家だ。

「この羽織……かけてくれたんだね。ありがとう」

 身体にかけられていた羽織を軽く持ち上げると、翠は軽く顔を背けてぶっきらぼうにこぼす。

「やわな人間は、風邪ひいただけでも死んじまうだろ」

「ん……心配してくれたんだ」

 ポカポカした日差しのせいか、まだ眠気が抜けきらない。うとうとしていたら、翠の大きくて骨ばった手が私の前髪を撫でた。

 気持ちいい……二度寝しちゃいそう。

 どこよりも安心できる彼の膝元で目を瞑る。

「私、いつの間に寝てたんだろう……」

「午後の稽古が終わって、俺の隣で茶を飲んでた辺りだ」

 思い出してきた。身体を動かして、お昼ご飯をたっぷり食べたあとだからか、縁側に寝っ転がった途端、睡魔に襲われたんだった。まだ太陽も沈んでないし、そんなに時間は経ってないみたいだけど、熟睡した気がする。