「……心に従ったら、俺はてめえを抱くぞ」

「奇遇だね。私も心に従ったら、あなたに抱かれたいと思う」

 ぷっと、私たちは同時に軽く吹き出して、額を重ね合わせる。『いいんだな?』と問うような翠の眼差しに、頷いて応えた。

 肩から落とされる寝間着の着物。外気に触れる肩は少しひんやりとしたが、そこに「愛している」という囁きと口づけを落とされて熱が灯る。

「綺麗だ、静紀」

 余裕のない目が、性急(せいきゅう)な指先が、私の胸を痛いくらいに高鳴らせた。木の葉を揺らす風の音も遠くなり、翠の吐息と互いの衣擦(きぬず)れの音だけが聞こえる。

「てめえの姿形が変わっても、俺はずっと……てめえにだけ心を奪われ続ける」

「うれしい……私、なにがあっても、今この瞬間を後悔したりしないよ」

 月明かりに見守られながら心も身体も暴かれていく触れ合いは、羞恥心よりも不思議な幸福感で私を満たしていく。

「愛してる、翠」

「……っ、ああ、俺もだ」

 翠はくしゃりと顔を歪め、静かに涙を流した。うれしいけど悲しくて、幸せだけど切ない……いろんな感情が溶けた涙だった。

 喪失感に冷えてしまったその心ごと、私が包み込んであげたい。翠の首に腕を回し、その頭を自分から引き寄せた私は──。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 涙の痕が残る翠の頬を唇で撫でたのだった。



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