「翠、私は翠を消滅なんてさせないからね」

 翠はおちょこに口をつけながら、私をちらりと見て「ん?」と片眉を上げた。

「みんなが翠への信仰を忘れても、私だけはあなたを信じ続ける。だって私は、翠の巫女だから」

「……巫女だけじゃねえだろ」

 今度は私が「ん?」と首を傾げる番だった。そんな私の顔を眺め、翠は口端を吊り上げる。

「巫女で嫁、だろうが」

「あ……ふふ、そうだね、私は翠の巫女嫁でした。だからね、あのね、なにが言いたいかって言うと……」

 私は翠の手を握る。

「悲しいときも、苦しいときも、私は翠のそばにいる。翠の感じてる痛みを分けてくれたら一緒に背負って、少しでも翠の心を軽くしてあげたいって、私はいつでもそう思ってるよ」

 私たちは夫婦だ。『自分は自分、他人は他人』ではなく、『相手のことは自分のこと』に変わった。運命共同体みたいなものだと、翠もそう思ってくれているから私に相談したのだろう。

「てめえには何年経っても敵わねえ。俺が欲しい言葉を、いつもかけてきやがる」

 愛しいものを見つめるように、翠は眉を下げて笑った。

 視線が絡み合う時間が長くなるたび、優しい光を宿していた翠の瞳には熱が混じる。それに気づかないほど、子供じゃない。

 私たちは見えない引力に引き寄せられるように、唇を重ねた。初めはそっと、次第に何度も角度を変えて重なり……。