「──静紀(しずき)」

 月の光が落ちて、私の名を呼ぶ翠(すい)の瞳に熱情が煌(きら)めいている。

 ──神様と人間は交わってはならない。

 頭ではわかっていても、どんなに理性が止めても、この視線に囚(とら)われて誰が抗えるというのだろう。

 夜の縁側で私を組み敷く彼は、とても泣きそうな顔をしている。

 悲しみに暮れるその心を私が包み込んであげたい、愛しさでいっぱいにしてあげたい。欠けたもの、枯渇(こかつ)したもの、飢えたもの……。それらを満たせるのはただひとつ、愛ではないかと思うから。

 だから私は、彼を引き寄せる。夜風の冷たさから、世界の無情さから守るように。

「触れたら後戻りできねえって、わかってんだろ……」

 後戻りできなくていい……触れてほしい、あなたに触れたい。

「心だけじゃ足りなくて、あなたの全部が欲しい」

 たとえ、望んだものと引き換えに……死ぬことになったとしても。