そんな昨夜の出来事を、放課後一緒にカフェに来た美玲に話すと、美玲は小さく笑った。
「結婚の話まで出るなんて瀬那ちゃん進んでる~」
「美玲ったら、面白がってるでしょ」
「だって、瀬那ちゃんの恋バナなんて新鮮だもん。しかもすでに結婚の話まで出てるなんて」
「あれはお兄ちゃんが先走りすぎたのよ。枢まで乗っかってくるし。枢があんな冗談言うなんて思わなかった」
冗談を言っているような顔をしていないので、なおさら本気で言ってるように見えるから始末に悪い。
「いや、瀬那ちゃん。それ冗談じゃないかもよ」
「えっ?」
「一条院家の人って、代々情熱的な人がおおいんだって。一条院様のお祖父さまは、10才にも満たない時に出会った奥様に一目惚れして、そのまま一条院の権力で婚約者にしたとか。今でもラブラブらしいよ」
「へぇ」
「そして一条院様のお父様の聖夜様も、家庭教師として出会った五歳も年上の女性に恋をして、そのまま何年も掛けてアタックして、見事結婚。噂じゃあ、早く結婚したいがためにデキ婚狙って一条院様が産まれたとか。瀬那ちゃんも気を付けないとできちゃった婚で大学休学することになるかもよ」
「なっ!」
こそっと言われて瀬那は顔を赤くした。
「そんなことあるわけないじゃない」
「分からないよ。一条院はそういう家系だもん。そのせいか、一条院家では政略結婚とかさせずに代々恋愛結婚らしいよ」
「だからって、結婚なんて、まだ十八なのに」
「聖夜様は二十歳で結婚してるよ」
確かに枢も昨夜そんなことを言っていた。
そして歩に、二十歳まで待つとも。
もしそれが冗談などではなく本気で言っていたのだとしたら……。
瀬那は両手で赤くなっているだろう顔を覆った。
「瀬那ちゃん可愛い」
「茶化さないでよ」
ニコニコと笑う美玲をジトッした目で見る。
「最初、一条院様と付き合ったって聞いた時は大丈夫なのかなって思ったけど、問題なさそうで良かった」
「美玲……」
「でも、他は問題ありありだけど。新庄さんとか一条院様のファンとか」
女の友情に感動していたのに台無しである。
「もしバレたらどうするの?」
「枢のファンはなんとかなると思う。一応対策は考えてるから。問題は……」
「新庄さんか」
「はぁ……」
それを考えるだけで瀬那からは溜息が出た。
「枢も、特に隠す気はないみたいだから、いずれ知られるだろうけど、面倒臭いことは嫌だなぁ。読書の時間が削られそう……」
瀬那にとって困るのはそこだ。
「読書どころじゃなくなるよね」
「和泉さんとか神宮寺さんに助けてもらうとか?」
「あの二人で抑えられると思ってるの、瀬那ちゃん?」
「……まったく思わない」
かと言って、枢のファンと違って愛菜への対策は思いつかないのだ。
まあ、結局その時にならなければ分からない。
愛菜がどんなことをしてくるのか予想が付かないのだから。
いざという時は親衛隊を総動員して対処しようということで、その話は落ち着いた。