その日は珍しく美玲達と昼ご飯を食べる約束をしていた。
枢にはあらかじめ言っているので、今日は一人分のお弁当だ。
枢からも許可を得たので、付き合っていることを話そうと考えていた。
「瀬那ちゃんとお昼一緒にするの久しぶり~」
嬉しそうにする美玲に少し申し訳ない気持ちになる瀬那は、現在生徒会の部屋で翔と棗を加えた四人で昼ご飯を取るところだ。
「なんか最近付き合い悪いからな、瀬那は。そんなんだと友達なくすぞー」
「それぐらいで切れる関係じゃないから大丈夫」
翔にそう言ってお弁当を広げた。
「相変わらず瀬那の弁当はうまそうだな」
瀬那のおかずを狙って手を伸ばして来た翔の手を美玲がぺしっと叩き落とす。
「翔は彼女からの愛妻弁当でも食べてなさい」
「はいはい」
翔の昼食は彼女お手製のお弁当だ。
毎日作ってきてくれるらしい。
学校が違うというのに健気なことだ。
美玲はサラダと玄米おにぎりを持参している。
モデルの美玲は体型維持のためにも食事には気を付けているのだ。
棗が全員分のお茶を用意してくれて、ようやく食べ始める。
始めは他愛ない会話を続けていた四人だったが、瀬那はいつ切り出そうかと機会を窺っていた。
「翔は相変わらず彼女とラブラブなの?」
「当然」
ドヤ顔をする翔に、聞いた美玲がやれやれというように肩をすくめる。
「聞いた私が悪かった」
「お前も早く彼氏作れば? 美玲なら選り取り見取りだろう? 月に何回告白されてるんだよ」
「なんかピンとこないんだよねー。やっぱり高校生は駄目。なんだか子供に見えちゃって。私は大人な年上の人がいいなぁ」
美玲はモデルとして大人に囲まれて仕事しているので、学校にいる同じ年代の子では少し幼く感じてしまうのだろう。
「年上で、エスコートがスマートで、背が高くて、優しくて、格好良くて……」
「お前には一生彼氏なんて見つからないと思う……」
翔の言葉に、隣に座る棗がコクコクと頷いた?
「なによぉ」
むくれる美玲は瀬那を見るとぱっと表情を明るくする。
「瀬那ちゃんはどうなの!?」
「えっ?」
「瀬那ちゃんは誰か好きな人いないの?」
「そう言えば瀬那のそんな話聞いたことないな」
「うん、ない」
言うなら今ほど絶好のチャンスはないだろう。
瀬那は意を決して口を開いた。
「……好きな人というか、今付き合ってる人いる」
そう告げた瞬間、大きく目を見開いた美玲に肩を掴まれた。
「うそ、本当!? いつから!? 私の知らない内にどういうことなの瀬那ちゃん!」
「おいおい、いつの間に彼氏なんて作ってるんだよ」
美玲だけでなく、翔と棗も驚いた顔をしている。
「この学校の人?」
こてんと首を傾げる棗に、瀬那はこくりと一回頷いた。
その瞬間、美玲のテンションはマックスになる。
「きゃー。誰、誰!?」
「ほんとだよ。誰だよ。同じクラスの奴?」
「そんなそぶり全然見せなかったじゃない、瀬那ちゃんったら」
それを言ったらもっとテンション激しくなるなと思いながら、瀬那の口からぽつりとその名をこぼす。
「えっと……枢」
「ん? 枢」
きょとんとする翔と棗に対し、同じクラスである美玲が察するのは早く、顔を強張らせてふるふる手を震わせている。
「せ、瀬那ちゃん、まさか……同じクラスの枢って……あの?」
「うん」
「うそだー!!」
ムンクの叫びのように頬を押さえ今日一番の絶叫をする美玲。
外まで聞こえたんじゃないかと、できるだけ隠していたい瀬那はハラハラした。
「おーい。お前らだけで分かってて、こっちは置いてけぼりなんですが」
「何言ってるのよ、翔! この学校で枢って言ったら一人しかいないでしょう!? 一条院枢様よ!」