総司は呆れた顔をしており、瑠衣は頭痛を感じているのかこめかみを押さえている。
そして枢は、冷めた眼差しで愛菜を見ていた。
「そういう理由で俺と出掛けたいならなおさら諦めろ。俺はお前の気持ちに応えることはない」
残酷なほどにスッパリと切り捨てる。
けれど、きっとこれほどはっきり言わなければ愛菜は分からないだろう。
いや、それでも愛菜は諦めなかった。
「それって……好きな人がいるから?」
「そうだ」
枢の返事に迷いはなかった。
枢にこんなに想われる人とはどんな女の子なのだろうか。
そう興味を引かれるのは瀬那だけではない、学校中の者がそうだろう。
「誰なの?」
「お前には関係ない」
「関係なくないよ! だって……だって、枢の近くに女の子なんていなかったもの。枢君の側にいる女の子は私だけで……。枢君は私だけに名前を呼ばせてくれてたじゃない」
あたかも枢の好きな人は自分ではないのかと問うているように聞こえる。
「それはお前が総司の幼馴染みだから自然とそうなっただけだ。名前で呼ぶのだって、最初は止めろと言っていたはずだ。けれど、お前は俺の話を聞かずに勝手に呼び始めた。俺が許したからじゃない」
うんうんと、総司が頷いていたので、枢の言っていることは本当なのだろう。
「で、でも、枢に一番近いのは私でしょう? だってたくさん話して、私がいっぱい話し掛けても静かに聞いてくれたし」
「いや、それただ無視されてただけだと思うぞ」
総司が横からツッコむが、愛菜には聞こえていない。
「枢君のこと一番よく分かってるのは私だし、一緒にいたのも私が一番だし」
「だから、好きなのは自分だとでも言いたいのか?」
冷たい。凍えそうなほどに枢は愛菜に冷たかった。
だから、枢の好きな人が愛菜ではないとここにいる誰もが嫌でも理解しただろう。
「だって、そんなのおかしい! 枢君に好きな人がいるなんて」
「お前に俺の何が分かるというんだ。総司の幼馴染みというだけで側にいることに文句は言わなかったが、俺が望んだわけじゃない。勝手に俺と仲良くなったと思われるのは迷惑だ。勘違いするな」
「つっ!」
愛菜は枢の言葉にショックを受け、ポロポロと涙を溢しながら教室を飛び出していった。
ざわざわとした教室は、何事もなかったかのような顔をした枢達が帰って行ったことで、いつも通りの空気に変わった。
けれど、クラスの話題になっているのは愛菜のことだ。
勘違い女だとか、調子に乗ってたからいい気味だとか、そんな悪意の言葉が興味津々に語られている。
愛菜に迷惑を掛けられていた瀬那だが、こっぴどくフラれた愛菜のことをざまあみろとは思えなかった。
「勘違いするな、か」
「ん? 瀬那ちゃん、何か言った?」
美玲にはよく聞こえなかったようで聞き返してくるが、瀬那は首を横に振った。
「ううん、なんでもない。私もそろそろ帰るね」
「うん。また明日ねー」
友人達と別れを告げ、帰宅する瀬那の頭の中に浮かぶのは枢の言葉。
勘違いするな。
それはまるで瀬那に言われたように感じた。
何故こんなにも胸が痛いのだろう……。