そして、その日学校から帰ると、一旦自宅で着替えて宿題を終わらせてから、鍵を持って枢の言う最上階へとやって来た。
最上階としか聞いておらず、どの部屋か詳しく聞いておくべきだったという悩みは最上階へ来て消え去った。
なんと、最上階には部屋の扉が一つしかなかったのだ。
最上階には来たことがなく、瀬那はマンションの造りを知らなかったので、これには頬を引き攣らせずにはいられなかった。
なにせここは高級マンションと言われる所で、瀬那の住む普通の部屋でも十分な広さがあり、なおかつお高い。
それをまさかぶち抜いて最上階丸々使っているとは……。
さすが、一条院の御曹司。
やることが庶民とは桁が違うと思い知らされた。
そんな人にこれから自分の手料理を振る舞おうと言うのだから、身の程知らずこの上ないのではないかと、瀬那は今さらになって尻込みしてきた。
「行くべき? ……いや、約束したんだし、行かないと駄目だよね。うーん」
本当にいいのか?と自分自身に何度も問い掛けていると、ガチャリと扉が勝手に開いた。
「そんなところで何してる」
頭を抱えている瀬那に、枢が呆れたように声を掛ける。
「えっ、なんで来てるって分かったの?」
すると、枢は親指で天井の一角を指した。
そこには小さいがカメラが付いていた。
「あっ、防犯カメラ……」
ということは、瀬那がここで悶々と悩んでいる所を見られていたということだ。
途端に恥ずかしくなった。
「や、えっと、これはその……」
「いいから早く入れ」
「……はい」
恐る恐る部屋の中に入っていくと、中の造りは瀬那の家とあまり変わりなさそうだった。
まあ、大きさはそれなりにあったが、それよりも瀬那の目を引いたのは、リビングの外に見える庭だった。
「わぁ……」
マンションの最上階ということを忘れさせられるようなイングリッシュガーデンが広がっていた。
「凄い、綺麗!」
「気に入ったのか?」
「うん!」
興奮して返事をしてから我に返る。
瀬那はすっかり枢を忘れてはしゃいでしまっていた。
「あ……ごめん」
「何がだ?」
「はしゃいじゃって」
「いや。気にするな」
そう言って微笑む枢。
最近の特に枢のこういう優しい笑みを見ている気がする。