そうして、枢を家に連れ込む……というのは少し語弊があるが、連れてくることに成功した。
「適当に座ってて」
そう言って、瀬那は買ってきた食材で、料理の続きをする。
コトコトと煮込んだビーフシチューは良い感じにとろみが付いて空腹を刺激する匂いがする。
小皿に少し入れて味見をすれば、時間を掛けたかいのある満足な味になっていた。
ふと、顔を上げると、対面キッチンの向こうからじっとこちらを見ている枢と目が合う。
いつから見られていたのだろうか。
急に緊張してきた。
思い返せば、いくら切羽詰まっていたからといって、枢を家に招くなど大胆な真似をしたものだ。
学校の枢のファンが知ったら血祭りに上げられそうである。
いや、昼休みを一緒に過ごしている時点でかなり問題かもしれない。
瀬那も通う学校は私立で学費が他の学校と比べて馬鹿高い。それ故他の学校よりお金持ちの子がたくさん通っている。
だいたいそういう子は幼稚園の頃から通っており、瀬那や翔のように高校から通ってくる一般家庭出身の子達とは一線を画する。
本物の金持ちというのは、おとっとりしていて人の悪口など汚い言葉は口にしない子が多いというのも、あの学校に通い始めて知った。
まあ、中には性格がきつい子もいるが、そういう子は成金だったり、高校からの外部からの入学の子だったりと分かりやすい。
以前虐めを行っていた花巻がそうだ。
けれど、そういう子はほんの一部で、だいたいは品の良い子達に触発され、礼儀正しく過ごしている。
けれど、そこに当てはまらない一部。
それが厄介だ。
行儀良くしている枢のファンクラブの子達だが、過激な者も中にいるはず。
瀬那が枢とこんなに仲良くしていると知ったらどんな手を使ってくるか。
まあ、やられただけで終わる瀬那ではないのだが。
ただ、厄介なことになるのは間違いない。
昼ごはんを一緒にしない方が良いのだろうか。
けれど、今さらな気がする。
それに、枢と過ごすあの静かな時間が、好きだった。
いつからかその時間を楽しみにするほどに。
そんなことを考えていると、鍋が噴きこぼれそうになっていて、慌てて火を止める。