昼休みを告げるチャイムが鳴る。

 教師が出て行くと一斉に動き出した生徒達。

 瀬那はすぐにはいつもの非常階段へは向かわず美玲と話していると、横目で枢が教室から出て行ったのが見えた。

 おそらく非常階段へ向かったのだろう。


 少し時間を置いて出ようと思い、美玲と話していると、教室の入り口に女子生徒が二人ほどクラスの中を窺っているのが見えた。


 美玲も気付いたらしく、そちらを見る。

 誰か探しているように見える女子生徒二人に、美玲が声を掛けた。


「どうしたの? あなた達一年生でしょう?」

「あ、あの私達新庄愛菜先輩にお話しがあって」

「ああ、あの女ね」


 緊張した様子で告げられた名前を聞いた美玲は、嫌悪感をあらわにし、嫌々ながら愛菜を呼びに行った。

 呼ばれた愛菜が一年生の前に立つ。
 しかし、知り合いというわけではなさそう。


「私に何か用?」

「あ、あの……ここではなんですから、場所移動しませんか?」

「うん、いいけど」


 愛菜は一年生二人と共に教室から出て行った。

 教室内ではザワザワと今のことについて話している。


「瀬那ちゃんは何の話だと思う?」

「さあ」


 瀬那は特に興味なさそうにしながら、お弁当を持って立ち上がった。


「もう行くね」

「うん、後でね」 


 ヒラヒラと手を振る美玲に瀬那も手を振り教室を後にした。


 階段までの道のりを歩いていると、外から声が聞こえてきた。

 窓の下を覗くと、先程の一年生と愛菜が何やら話している。



「あの、先輩と一条院様は付き合ってるんですか!?」


 直球で聞くなぁと、瀬那は感心した。

 愛菜が枢達と一緒に行動しており、女子の中で愛菜だけが枢を下の名前で呼んでいるのは周知の事実だが、誰も枢と愛菜の関係性を聞いた者はいない。

 怖くて聞けないというのが正しいかもしれない。

 しかし、まだ一年生の彼女達は枢との関わりも少なく、怖い物知らずで来てしまったのだろう。


「わ、私と枢君が付き合ってるなんて、そんな……」

「違うんですか!?」

「うん、まあ……今はまだそこまでの関係じゃないよ」


 今はまだ。何とも意味深な発言だ。

 頬を染めて照れる愛菜に、一年生達は目をつり上げる。


「それってどういう意味ですか?」

「先輩は一条院様と付き合ってるわけではないんですよね?」

「だったら、告白したっていいですよね。私一条院様のことが好きなんです」


 すると、愛菜が突然慌て始める。


「駄目だよ、そんなの!」

「どうしてですか? 付き合ってないんですよね」

「まだ付き合ってないけど、枢君といつも一緒にいるのは私だし、枢君もそれを受け入れてくれてるのよ。
 あなたが告白しても悲しむだけだと思う」


 その言葉は一年生達の怒りに触れた。


「何ですかそれ。自分がいるから断られるって言いたいんですか?」

「私はただ、悲しむと分かってるのに無駄なことはしない方がいいんじゃないかって」

「無駄!? 無駄ってなんですか?」

「付き合ってもない人に言われたくないです!」


 これは雲行きが怪しくなってきたなと、瀬那はヒヤヒヤした。

 万が一愛菜に手を出したら枢達がどういう制裁を与えるか分からない。


 愛菜の人の気持ちを逆なでする言い方には瀬那も気分が悪くなったが、手を出すのはいけないし、彼女達が枢達に何かされるのはかわいそうだ。


 どうしたものかと考えていると、いいところに教師が通りかかった。


「先生」

「ん、どうした?」

「なんか、下で喧嘩してるみたいなんです」

「何だと?」



 教師は窓の下を見ると、大きな声で「こらー、何やってるんだ、お前達!」と怒鳴り声を上げた。


 これで大丈夫だろうと、瀬那はお弁当を持って非常階段へ向かった。