間の悪いことに、そこへ枢達いつもの三人が教室へ入ってきた。

 愛菜は枢達を見ると、「枢君!」と言って走って行った。


「瀬那ちゃんが……」


 それだけを言って悲しげに目を潤ませる愛菜。
 何も知らない者から見れば、瀬那が愛菜を虐めているようにも見える。


 一部始終を見ていた他の生徒は助けを出すべきか迷った顔をしていたが、枢が怖くて躊躇っているようだ。


 瀬那はそんな愛菜にも周囲にも我関せず鞄から教科書や筆記用具を出して授業の準備をしていく。


 その間に愛菜が何やら訴えていたようだが、枢は腕を掴む愛菜を振り払い一瞥することなく自分の席へと座った。

 代わりにやって来たのが瑠衣だ。

 因縁でもつけてくるようなら応戦する気満々だったが、瑠衣が最初に発したのは謝罪の言葉だった。


「ごめんね、神崎さん。愛菜がまた何かやらかしたみたいで」


 愛菜の必死の訴えも、瑠衣は真に受けてはいなかったようだ。
 さすが付き合いが長いだけあり、愛菜がどういう人間かを分かっている。


「和泉さんが悪いわけではないですから。でも、私は新庄さんとは仲良くなれそうにないので、できれば関わらないでもらいたいです」

「ちゃんと言い聞かせておくよ」

「お願いします」


 こくりと頷くと瑠衣はそれ以上何かを言うこともなく、席へと戻っていった。


「はぁ……」

「神崎さん朝から災難だったね」


 溜息を吐く瀬那に声を掛けてきたのは、よく美玲と話している子達だった。


「うん。正直ああいうタイプは苦手なんだよね」


 甘ったるい話し方。友人でもないのになれなれしい態度。かと思えば簡単に虐められたと枢にすり寄り、自分の弱さを主張する。
 どうにも好きになれる気がしない。


「私達も聞いてたけど、あの言い方じゃまるで神崎さんが虐めてたみたいだったじゃない。
 友人とか言った口で何がしたいか分かんないわよ、あの女」

「一条院様達の手前だから皆直接言ったりしないけど、彼女って女に嫌われるタイプだよね。媚びてるっていうかさ。女友達なんてできるわけないって」

「しっ、一条院様達に聞こえるわよ」

「大丈夫よ、離れてるし」


 女の子達はひそひそ声を小さくさせながら愛菜への不満を言い合った。
 
 まあ、正直こういう女子の悪口大会も瀬那は好きではないのだが、愛菜の突撃の後ではどうも否定はできない。

 それによくよく話を聞いてみると、愛菜は色んなグループに話し掛けに言っていたようだ。

 まだ女友達を作る野望を捨てきれていないらしい。

 話し掛けるまではいいのだ。
 話し掛けられたグループも枢達の話が聞けるかもと最初は会話に入れるのだが、よく言えば素直。悪く言えば空気が読めない愛菜の言葉に嫌気がさして離れていく。

 それをクラス内の全ての女子に行ったらしい。

 愛菜を苦手としているのは瀬那だけではないのだ。

 それで一周回って瀬那のところに来たというわけなのかもしれないと、女の子達は言う。

 迷惑だと、瀬那は頭を痛めた。


 この短い期間に、クラス中の全ての女子に嫌われるとは、ある意味才能だ。
 それも枢と仲がいいからという理由ではなく、愛菜自身の性格が嫌われている。
 

 また何かやらかさなきゃいいなと思っていたら、すぐにそれは現実となった。