家に帰ると、綺麗にセットされた髪を解く。

 崩れないようにスプレーをたくさん振ってあるので少しゴワゴワする。

 お風呂に入ってメイクも髪も綺麗にしてサッパリした。


 ほてった体を冷やそうと冷凍庫を開けアイスを探す。だが、アイスは一つも見つからない。


「あれ、おかしいな。確か買い置きしてたのがあったのに。お兄ちゃんまた勝手に食べたな」


 歩が瀬那の物を勝手に食べるのは今に始まったことではない。
 勝手に食べないようにと、大きな文字で瀬那用と油性ペンで書いていたとしても、気にも止めない。

 そういう時は、歩の朝食だけおかずを減らしてやるのだ。
 そうなると、その時は謝って瀬那のご機嫌を取ろうと会社帰りにお土産を持って帰ってきてくれる。

 それで許して一件落着となるのだが、歩はまた懲りずに瀬那の物に手を出すのだ。


「お兄ちゃんの明日のおかずは梅干しだけにしよう」


 味噌汁ぐらいはつけてやるのがせめてもの情けだ。
 食べ物の恨みは恐ろしいのである。


 しかし困った。
 アイスはないが、今の瀬那はアイスが無性に食べたい。


「仕方ない。買いに行くか」


 もう夜遅いが、この辺りは治安も良いし大丈夫だろうと判断する。

 髪を乾かすと、財布だけを持って家を出た。


 エレベーターで一階に降りて、エントランスを抜けて外に出ようとした時、マンションの前で高級車が一台止まった。

 そこから降りてきたのは枢で。

 今頃帰ってきたのかと、特に気にせずその横を通り過ぎようとしたが、「どこに行く」と聞こえてきたその言葉に足を止めて振り返った。


 すると、枢がその何を考えているか分からない瞳を瀬那に向けていた。


「えっ、あの、アイスを買いに」

「こんな時間にか」

「うん。ちょっとそこのコンビニまでだし」


 歩いて五分もしない距離だ。
 すると、枢は眉間に皺を寄せたかと思うと、歩き出した。

 マンションとは別の方向へ。


 帰ってきたのではないのだろうかと、瀬那が不思議そうに見ていると、枢が振り返る。


「どうした、行くんじゃないのか?」

「えっ、一条院さんもコンビニに用事?」

「違う。こんな時間に女一人は危ないだろう」


 瀬那は困惑した。


「えっと、ついてきてくれるの?」

「早く来い」

「う、うん」


 瀬那は急いで枢の元に行き、歩く枢の横に並んだ。