「一条院以前に、一条院さんは素敵だから、女の子なら誰でも惹かれるのよ。
 皆一条院さんの恋人になりたくて必死なのね」




 一条院家というブランドがなくても、きっと彼の恋人になりたい子は沢山いるだろう。  


 モテる男は大変だなと思いながらハム卵のサンドイッチを取り、ぱくりと食べる。
 すると、横から伸びてきた手のひらが瀬那の頬に添えられる。


 驚きながら横を向くと、枢の全てをからめ取るような漆黒の眼差しと重なった。





「お前もか?」

「えっ……」

「お前も俺に惹かれるか?」




 その問いにすぐには答えられず……いや、なんと答えたら良いのか分からず、瀬那は自分を見つめる枢の瞳を見つめ返す。



 冗談で返せばいい。

 けれど、その瞳があまりにも真剣で、笑って返すことができなかった。



 沈黙がその場に落ちる。



 その時、手に持っていたサンドイッチの具が、ポトリとスカートの上に落ち、瀬那は我に返る。




「わっ、きゃ」




 大きく仰け反ったことで、頬に添えられていた手はするりと離れる。
 そのことに少し寂しさと安堵がない交ぜになる。




「ティッシュ、ティッシュ」




 バッグからティッシュを取り出し、汚れたスカートを拭く。



 すぐに拭いたが、少し汚れが残ってしまった。



 瀬那は拭いているふりをして、顔を俯かせていた。

 きっと今瀬那の顔は赤いだろう。
 それを悟られないように、髪で顔を隠しながら下を向いた。