「だって、瀬那ちゃん。
 彼女と話してる一条院様が笑ってるの見たことある?」

「……ないかも」



 瀬那は、愛菜と枢が話している姿を思い返してみてそう答えた。



「でしょう!
普通、彼女相手なら笑うでしょう。
でも、話している場面はのよく見るけど、新庄さんが一方的に話してるだけだし、一条院様が彼女を相手してるの見たことないもの。
 あれで彼女なんて、ないない」



 確かに美玲の言う通り、枢が笑った所は見たことがなかった。

 恋人と話していればもう少し表情が緩むはず。
 しかし、愛菜が枢に話し掛けていても表情一つ変えないどころか、視線すら向けないのだ。
 恋人同士と言うには無理があるかもしれない。




「でも、一条院さんは新庄さんのことなんとも思ってないとしても、彼女の方は違うよね、あれ」


 愛菜が枢を見る目には明らかな好意が見て取れた。
 あれでは誰が見ても愛菜が枢を好きなことが分かる。



「うん、間違いない。
 あれは絶対に一条院様のこと好きだよね。
 相手にされてないみたいだけど」

「私に対してもそうだけど、あれだけ無視されてて話し掛け続けられるのって凄い精神力だよね。
 私なら落ち込むと思うんだけど」



 それとなく発せられる空気で、迷惑であることを悟ってもらおうと、会話を切り上げようとしたり、つまらなさそうな顔をしたり瀬那なりに察してもらおうとしているのだが、まったく効かない。


 返事のない枢に対しても、一方的に話せるあの精神力は凄いと普通に感心してしまう。
 普通なら途中で心が折れる。



「一種の才能だよね。
 その被害がこっちに来るってのが厄介だけど」

「激しく同感」




 このまま彼女が空気に気が付かないのなら、泣かれるのを覚悟ではっきりと拒否した方が良いかもしれない。
 平穏な生活のためにも。