ふと、紫織は朋也のことを想い出した。
 朋也には何度か手紙を出している。
 だが、朋也からの返信は全くない。
 紫織と違って筆不精なのもあるが、涼香同様、自分のことで精いっぱいで手紙のことにまで気が回らないのかもしれない。
 いや、それ以上に、朋也はあえて紫織と距離を置こうとしていることにも本当は気付いていた。

 朋也に想いを告げられた高校一年の冬。
 熱を出し、弱っていた時だっただけに、紫織の気持ちもほんの少し揺らぎそうになった。
 けれど、どれほど朋也が自分に好意を抱いてくれていると分かっても、宏樹への気持ちは決して消し去ることは出来なかった。

 紫織は朋也の想いを踏み躙った。
 朋也のことを分かっているつもりでいたが、本当は全く分かっていなかった。

 宏樹もまた、紫織の気持ちに応えたことで朋也にどこか遠慮がちになっていた。
 面上は普通に仲の良い兄弟に見えたものの、ふたりの間に埋めようのない透明な壁が出来ていたことに紫織もさすがに勘付いた。

 朋也が家を出た理由に、紫織と宏樹が絡んでいたことも分かっていた。
 もちろん、紫織も宏樹も深く詮索するつもりはなかったし、実際にしなかったが。

(朋也のことが気になって手紙を送り続けてるけど、朋也にとっては迷惑でしかないのかもしれない……)

 無意識とはいえ、自己満足に朋也を巻き込んでいると気付いたとたん、己に嫌悪感を覚える。
 手紙を送ることで朋也の傷を抉る。
 だが、手紙を書かないと何故か落ち着かない。
 身勝手とは分かっていても、朋也とはずっと繋がっていたいと紫織は今でも思っているのだ。