◆◇◆◇◆◇

 涼香が家に来るのはどれぐらいぶりだろうか。
 高校在学中はたまに遊びに来ることがあったが、卒業後はお互いに都合が付かず、逢うのもままならないほどだった。

 紫織が涼香に電話をしようと思ったのは、ほんの気まぐれだった。
 いや、本音を言えば、涼香と逢いたいと思っていた。だから、無理を言って夕飯に誘った。

「涼香ちゃん、あんたと違って忙しいでしょうに」

 母親と並んでキッチンで夕飯の支度をしていたら、見事に指摘された。

「あんたはいいわよ? いずれは宏樹君の元に嫁ぐんだから、その間だけバイトで稼いでいればいいんだから。けど、涼香ちゃんはちゃんと正社員として働いてるんでしょ?」

「――確かにバイトだけど、私だってちゃんと働いて家にもお金入れてるじゃん……」

「でも、フルタイムで働く気はない。違う?」

 図星を指され、紫織はグッと言葉を詰まらせる。

 確かに、紫織は今の環境に甘えている。
 まだはっきりとプロポーズはされていないが、母親の言う通り、いつかは高沢の籍に入る。
 親同士も、その辺は暗黙の了解だった。

「ま、あんたがちょっと自由な分、こうして家事を手伝ってくれるから、助かってると言えば助かってるんだけどね」

 そう言いながら、じゃがいもの皮を剥き続ける。
 紫織も同様に皮剥き作業に没頭していた。