「指紋、だいたいいつ頃ついたかとか、すごい分かるらしくて、殺された当日財布触ってたの兄貴だけでさ、中の金もなかったらしくてほかに証拠はなかったけど、とりあえず新しい被害者見つけようって話になったらしい。最新の技術でまだ実験段階だったけど、犯行クソすぎるのに犯人捕まんないから、市民を守るために無理やり――らしい。行き過ぎてたって警察の奴ら謝りに来たよ」

「……そっか」

「でも、ほかにも状況証拠が揃ってたらしい。兄貴の髪の毛とか、食べ物のゴミ? とかが現場の近くにあって、飯食いながら見てたとか疑われてたみたいだった。俺の兄貴、ゴミとかまじで死ぬほどだらしないし、工事現場で適当にゴミ拾われたとか、そういうのもあると思う。そもそも三人目の被害者と通勤経路、一時期同じみたいだったらしいから」

 被害者と、通勤経路が同じ……? そこまで来ると、何故釈放されたのか疑念を抱いた。「お兄さん、新しい事件が起きたから釈放って流れ?」と問えば、彼は「それと」と話を続けた。

「コンビニの監視カメラに映ってたんだよ。っていっても、コンビニの前の自販機の監視カメラだけど」

「監視カメラ?」

「ん。自販機荒らしってあるだろ? あれの防止用に四方八方自販機つけてるところがあってさ、そこに兄貴が写り込んでたっぽい。東条と乃木って刑事さんが見つけてくれてさ、本当に感謝しか無いわ」

 東条さんは、もしかしたら真木くんを捕まえたあの東条さんかもしれない。あの時の二人も、殺人事件を追っていたし……。

「あ、そろそろなしづか縫製工場に着きそうだな」

 沖田くんが指を赤い屋根に向かって指を指した。木々や住宅街が点在する中、トタンの壁をどっしりと構えるその工場は、想像より大きく人もいる。沖田くんがスマホを取り出し電話をかけると、すぐに工場の玄関に彼のお兄さんが現れた。お兄さんは私を見て、「園村……さん?」と、ややぶっきらぼうに声をかけてきた。

「はい。園村芽依菜と申します。えっと、彼は真木朔人といいます。えっと、私も彼も沖田くんのクラスメイトで――」

「知ってる。妹と――弟、世話になった。ありがとな」

 沖田くんのお兄さんはくるりと振り返り、「じゃあこれ」と大きなダンボール3つを私たちの前に置いた。しかし、じっと私を見て、一つの箱を少しだけ取り除いて、他ひとつのダンボールに置くと私に渡してきた。

「じゃあ、俺はこれで――」

「沖田! お前高校生たちも敷地内入れろって言っただろ! 車の出入りあるからって、轢かれたらどうするんだ!」

「社長……」

 大きな声に沖田くんのお兄さんが目に見えてうろたえた。社長と呼ばれた人はずし、ずし、と足音を響かせながらこちらへと歩いてくる。あれ、この人前にどこかで――?

 思い出そうとしているうちに、社長さんは私の前に立った。

「社長の梨塚です。この町の自治会長と、あと、そこのアパートの大家をやってる」

「はじめまして、園村芽依菜と申します。こ、この度はありがとうございます……!」

「いいや、礼を言いたいのはこっちだよ。布のこともそうだけど、この馬鹿、社員だって言うのに家のことなんにも知らせないで、大丈夫です大丈夫ですって、小さい妹も弟もいるってのに、大人に頼らないで何考えてんだか」