真木くんの体調不良は、一時的なものだった。保健室に行くことを進めたけれど、トイレに行って体調不良が解消されたのかすっきりした顔をしていて、次の日になっても腹痛がぶり返すことはなかった。

 よって、「お腹痛くなったらすぐに教えてね」と伝えつつ、私と真木くん、そして沖田くんの三人で、なしづか縫製工場に文化祭で使う布をもらいに行くことになったのだ。普段の寝坊癖にくわえ、体調にも不安があったけど、真木くんはダッフルコートにまたマフラーをぐるぐる巻きの状態にして、少しもふもふしながら私の隣を歩いている。

「えっと……お兄さんって、工場でもう仕事再開した……んだよね?」

「一昨日から、死ぬほど働かされてる」

 そう言って、沖田くんはコーチジャケットの袖で鼻をこする。「仕方ねえよ。不審者っぽいのがいけないんだから」と続けた。

「不審者っぽい……?」

 思い返しても、沖田くんのお兄さんは不審者っぽい容姿には見えない。短めの金髪で、土木作業員の出で立ちだったから、言ってしまえば町中でよく見る人だった。公園に立っていたとしても浮くことはないし、町中のドッキリで町中の人に擬態したカメラマンのうち一人は、必ずその姿になるような見た目をしていた。

「あの……さ、沖田くんのお兄さんって、結局どうして逮捕されたの……? 公務執行妨害って聞いたけど……猟奇殺人の犯人に疑われてたんだよね……?」

「……実は、三人目の殺人が起きた時……兄貴、その被害者の財布、触ってたらしい」

「え……?」

「指紋、ついてたらしいんだ。三人目の被害者が殺された当日、兄貴、その人と会ってたらしい。っていっても、落とし物して拾った時についてたらしいけど……」

「そうなんだ」