慌てて真木くんを引っ張って、教室へ急ぐ。彼は「うぅ〜」と、あからさまに寝かせてほしさを出しながら、私に腕を引かれている。
「そういえば真木くん、文化祭、行きたいところ決めた?」
「めーちゃんの好きなとこなら、なんでもいーよ」
「えぇ……もしかして真木くん、文化祭の出し物プリント、失くしちゃったの……?」
昨日、文化祭の出し物のパンフレットが配られた。ただ各クラスの出し物がリスト化された簡単なもので、色々宣伝が書いたりイラストが描かれたりするのは、だいたい文化祭2週間前に配られるから、もう少し先だ。昨日、たしかに真木くんはそのプリントを見ていた気がするけど……思えば、そのまま机に入れていたような気もする。
「ねぇ真木くん……」
ぱっと振り返った瞬間、ガシャン! と硝子が砕ける音がした。驚いて視線を戻すと、ちょうど私達が歩く眼の前に、サッカーボールが転がっている。たぶん、さっき校庭でサッカーをしている生徒達がいたから、その人達のボールだろう。原因も、わかっている。それに私達の前と言っても、すぐ前じゃなくて五メートルほど先だ。なのに心臓がばくばくしてきて、気持ちが悪くなってくる。
「あ……」
「めーちゃん、お腹痛い……お腹痛い、痛い、痛いぃ……」
真木くんは、お腹を押さえ、蹲り始めた。私は慌てて彼の背中をさする。
「お腹痛い、トイレいきたい。漏れちゃう」
「わ、分かった」
顔色が悪くなった真木くんを支える。近くにトイレはない。引き返して、階段を上がらなければ。なのに彼は私をぐいっと引っ張り、自分の顔を私の胸に押しつけた。
「真木くん?」
「お腹痛いよ……めーちゃんたすけて……」
「い、今から病院に……きゅ、救急車呼ぶ?」
「ううう、痛い。ちぎれちゃう。痛い……」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられ、真木くんの心臓の音が聴こえる。規則正しく、だけど少し速い彼の鼓動に不安と違和感を覚えていると、彼は私から身体を離した。
「痛いの治った……でも帰りたい、漏れちゃう。トイレ行きたい……」
お腹を押さえて真木くんは俯く。硝子の破片も気になるけれど、今は彼が優先だ。私は彼を支え直すと、トイレに急いだのだった。