「文化祭で使う布って、大きさとか指定ない?」

「うん! いらない布だったら何でも大丈夫だよ! ただ、ギラギラしたスパンコールとか、羽毛とかちょっと特殊なのは上手く使いこなせないかもしれないけど……」

「そんな感じじゃないよ! 実はね、うちの近く、カーテンとかクッションとか作ってる工場が近くにあってさ、切った布、ごみ処理トラックで出してるっぽいから問い合わせたら貰えるんじゃないかなーって」

「教えてくれてありがとう……! その工場の名前聞いても良い?」

「うん。なしづか縫製工場ってところ……確か沖田くんの家の方向だったと思うんだけど……」

 彼女は頬を赤らめ、不自然に俯いた。思えば沖田くんの住んでいるところは「なしづかアパート」だ。もしかしたら同じ地区にあるのかもしれない。私はメモをしながら田淵さんにまた視線を合わせると、彼女は縋るように私に一歩近づいた。

「沖田くんって、彼女いるか知ってる?」

「え?」

「いそうとか、いなそうでも大丈夫なんだけど……」

 必死な声色や落ち着かない視線に、さっきまで瞬間的に覚えていた疑念がふわりと溶けていった。きっと彼女は、沖田くんのことが好きなのだろう。私は「彼女の話は聞いたことないよ」と答えた。

「ほんとに!?」

「うん。沖田くんとは文化祭委員の話をするだけだけど、そこで彼女が〜とか、一言も聞いたこと無いよ。一回朝に真木くんと私と沖田くんで学校集まった時あったけど、一人で来てたよ」

「そっか! そうなんだぁ……!」

 彼女は花を咲かせるみたいに顔を綻ばせた。その笑みは恋する乙女の標本を切り取ったかのようで、淡い恋心がありありと伝わってくる。

「おはよー久しぶり」

 少しだけ騒がしい教室に、太陽を思わせる溌溂とした声が通った。田淵さんはばっと勢いよく教室の扉に顔を向ける。そこにいたのは沖田くんだ。彼はやや寝不足気味らしく、大きく開いた瞳とは対象的に、その薄い瞼の下には色を落とした隈があった。

「園村、文化祭のこと出来なくてマジでごめん……」