「ただいまー」

 家に戻る頃には、日暮れとなってしまっていた。荷物は真木くんが持っていてくれるらしく、彼に預けた私は和菓子の紙袋を持って家に入る。リビングからばたばたと動く足音が聞こえてきて、エプロンの上から少し出かけるときに着るジャケットを着たお父さんが駆けてきた。どうやら今日の夕食はカレーらしい。

「芽依菜!? 大丈夫だったか!?」

「どうしたのお父さん、そんなに慌てて。あ、何か買い忘れ? だったら私が行くよ?」

 本当に切羽詰まった様子だ。こんなお父さん、以前カレーは出来たけど炊飯器が空だった時くらいにしか見たこと無い。夕飯関連で何かあったのか問いかけると、「違う」と即座に否定され、お父さんがすぐ玄関扉の鍵を閉めた。

「駅前の洋菓子屋さんあるだろう? あの裏に神社あるの知ってるよな?」

「うん。あの子供が遊ぶの禁止になったところでしょ? うるさいって怒られて……」

「そこで死体が見つかったんだ。猟奇殺人の」

「え……」

 猟奇殺人――?

「母さんそれで、犯人違ってたって休み返上になって出ていったんだけど、芽依菜母さんが休んだ時、クッキー買ってきてくれるだろ? だから万が一のことがあったらってメールも電話もしたんだが、芽依菜と連絡つかなくて……」

「ごめん、充電切れてて……」

「とにかく無事で良かった。とりあえず家の中入りなさい。今日ずっと真木くんと一緒で、一緒に帰ってきたんだよな?」

「うん。ちゃんと真木くん家に入っていったよ」

「そうか……ああ、夕飯できてるぞ」

 お父さんがぱたぱたとスリッパの音をさせながら台所へ戻っていく。私はどこか雑然とした気持ちで、お父さんの後を追ったのだった。