私は沖田くん宛にメッセージを打っていく。この間全く連絡がつかなかったことがあって、彼のアドレスを聞いておいた。二年生になるまで、私のスマホには私の家族の他には真木くん、真木くんの両親、そして一年生の頃は同じクラスで、今年はクラスが離れてしまった瑞香ちゃんの連絡先が入っていたけど、今月に入って沖田くんに吉沢さん、和田さんとIDがどんどん増えていくなと思う。
「からすだ」
真木くんがぼんやり空を見上げた。空には烏が夕日に向かって飛んでいっている。雲ひとつ無く、真っ赤な夕焼け空だ。確か前に、小学校の頃の理科の授業で「マジックアワー」というのを習った気がする。どんな空がマジックアワーと言われるんだっけ……。たしか、日没前後の空のことを言っていたから、青空ではないと思うけれど……。
でも、もっと思い出そうとしても、頭がぼんやりしてきて霞がかっていくだけだ。やがて、けたたましいサイレンの音が遠くから響いて、はっとする。視線を向けると、夕焼けよりも赤いランプを点灯させたパトカーが、すごいスピードで何台も通り過ぎていった。赤信号中の横断ということで、無線機で他の車に停車するよう指示しながら、パトカーは走り去って行く。
「何かあったのかな……」
「危ないよ。おうちもうすぐだし、帰ろ……眠いし、疲れた……」
「大丈夫? 荷物持とうか?」
「ううん。荷物は持ってる。ほら、さむだから帰ろ。道路凍ってひっくりかえっちゃう」
「まだ雪は降ってないから凍らないよ」
「凍るよ。皆凍っちゃう。極寒だから……」
どうやら真木くんは、朝に見た天気予報で「来月は近年まれに見る寒さ」というのを誤解してしまっているらしい。私は「寒いのは来月だよ」と伝えながら家へと急いだのだった。