振り返ると、同じクラスの吉沢さんと和田さんが立っていた。吉沢さんは黒髪ストレート、和田さんはふわふわの髪をゆるく巻いた、いわゆるギャルっぽいグループに所属している二人組だ。私は二人とは出席番号が離れていて、移動教室や班別行動も全て違う。話をしたのは文化祭で提案した時、「アリスかわいー!」と賛成してもらったことくらいだ。それすら、話をしたとカウントしても良いのか微妙なところだけど……。
「何してんの? デート?」
そう言って和田さんは顔を覗き込んでくる。緊張で視線を落とすと彼女の服装が視界に入った。ふわふわのニットワンピースを着て、吉沢さんはライダースジャケットを羽織って帽子をかぶり、とてもおしゃれな格好をしていた。なんだか自分が酷く子供っぽい格好をしているように感じてとても気まずい。
「えっと……」
「文化祭じゃん? 委員やってたよね? 園村さん」
吉沢さんは教室では物事をズバズバ言うタイプだ。でも問いかけは優しい気がする。「ぶ、文化祭……」としどろもどろに答えても、彼女は気にすること無く、「へー、すごい大変じゃん」と、カップの飲み物片手に辺りを見渡した。
「でも何で二人? 他に誰かいないの? ドタキャン?」
「なんていうか……予算組みがあんまり上手く行って無くて、どうにか安くすませられないかなって、ヒント探しかな……」
「えぇ、大変じゃない?」
今度は和田さんが首を傾けた。とても親身になってくれている気がする。今まで一度も話をしたことがなかったのに。でも、面白がられているというわけでもない。吉沢さんの視線は、教室で話をしているのを見ていた時よりずっと気さくな印象だ。
「そういえば園村さん、デザイン出来たって言ってなかったっけ? なんか削れたりできないの?」
「うちのママ、デザインの仕事してるけどめっちゃ削られてるよ。日常茶飯事。電話でさ、承知しました〜とか言ってんのにめちゃくちゃ愚痴ってくるもん」
「あ……そっか。勝手に削ってキレられんのやだよね。あっちもせっかく作ったデザインなのにってキレるだろうしさ」
怒られる……、デザインを頼んだ子たちは、あんまり気性が激しい感じはしない。
でも、せっかくのデザインを削られたら嫌な気持ちもするだろうし、せっかくデザインしてもらったのだから、出来れば活かしたい。
ただ今日いい案が思い浮かばなかったら、「どうしても……」とどこか削ることになってしまうかもしれないけれど、目に見えて「ここはいらない!」なんて決められるような部分はどこにもなくて、厳しい……。
「そういえば、吉沢さんや和田さんはお買い物?」
「うん。映画見に行くのと……、あと去年コンセントがイカれて服燃えたからコートとか全然無くて、古着買いに着たんだよね」
「火事……古着……?」
「え、園村さん知らないの? 昔の海外とかの服、ここの通りでめっちゃ売ってるよ」
あそこ! と指さされたそこは、距離的に薄ぼんやりとしか見えないけれど、淡い色味の服が屋外で売られている。「文化祭でリメイクできそうな服あるかな……」と呟くと、「それは無理でしょ」と、吉沢さんにバッサリ否定されてしまった。