事件のニュースを読んでいると、店員さんがやってきて私は慌ててスマホをしまった。真木くんもおぼつかない手つきでメニューをしまっている。私の頼んだオムライスセットは、サラダとミネストローネがついていて、真木くんのカレーセットは、共通のサラダのほかに、ナゲットがついているものだ。
「めーちゃん、カレーひとくちあげるね……」
真木くんはスプーンを手に取ると、ゆったりとした動作で掬ったかと思えばそれをこちらに向けてきた。大丈夫だよと言う前にそれはもう唇に触れるくらいの距離にあって、私はすぐ口を開けた。
「めーちゃん、あーん」
ゆっくりと口の中にスプーンを差し込まれ、一口カレーを食べる。持ってきて時間も経っていないから、熱々だ。
「めーちゃんあちち? お水飲む?」
「大丈夫……! 美味しいよ!」
「じゃあ今度は、ふーふーしてあげる……」
真木くんがカレーとご飯を器用に掬って、ふぅ、ふぅーと、冷ましていく。そして彼はまた、「あーん」とスプーンを差し出してきた。私はまた一口食べて、自分ばかり食べていては申し訳ないとオムライスを一口スプーンで掬った。
「真木くん、はい」
「あー……」
真木くんはオムライスではなく何故か私を見ている。指が震えないように気をつけながら彼にオムライスを食べさせた。美味しいと顔を綻ばせる彼を見て、「もっとどうぞ」と私は真木くんにまたオムライスを一口差し出した。真木くんが零したら拭けるように、私たちはいつも横並びで座るようにしているけど、お互いの食べ物を食べさせたり、というのはあまりしてこなかった。そう考えると、なんだかこれは恋人同士みたいな……。
「どうしたのめーちゃん、顔赤いよ? おねつ?」
真木くんは、ぺたりと私の首に手をあてた。「血管がんばってるねぇ……」と触れてくる手は冷たくて、ひんやりしている。やがて彼は「ふらふらしたら教えてね……」と、カレーを食べ始めた。
「う、うん……!」
なんだか、さっきは酷く真木くんを意識してしまった。私はどんどん早くなる心臓の鼓動を誤魔化すみたいに、オムライスを食べたのだった。
◆◆◆
雑貨も買ったしオムライスも食べたけれど、まだまだ文化祭の問題は山積みだ。気を引き締めて今度は衣装や内装用品を見に行こうとファミレスを出ると、「あれー? 園村ちゃん?」と、後ろから声がかかった。
「あれ……吉沢さんと和田さん……?」