「はあだるい……動きたくない、土の中にかえりたい……」
学校に辿り着き、校門をくぐると真木くんは大きく欠伸をした。彼は目をこすりながら、そのままゆっくり瞼を閉じていく。足取りも重く、黒いスニーカーもずりずりと引きずってしまっている。
「真木くん、寝るなら教室まで我慢しないと。それに洋服も汚れちゃうし、ここまで来たんだから授業受けよう?」
「えぇ……疲れたよ……もう動きたくない」
真木くんは下駄箱まであと少し、というところでしゃがみ込んでしまった。 スニーカーが黒いからという理由で買った彼の背負ったリュックも、肩紐を最大限まで下げて背負っているので、地面とくっつきそうになっていた。その後姿は、小学生がアリを見つけてしゃがみこんだようだけど、私も彼も高校一年生なわけで、かなり目立つ。
昇降口へ目を向けると、生徒たちはさっさと靴を履き替え、朝練と皆が教室へ急ぐ中、ただ一人蹲る真木くんの様子は皆の視線を集めるには十分だ。体格のいいラグビー部や、サッカー部の男子たちが首を傾げながら校舎の中へと入っていっている。私はなんとか登校させようと、真木くんのの手を引っ張った。
「ね、下駄箱まで手繋いでてあげるから。行けそう?」
「……ありがと、よろしく……おやすみ……」
「真木くん駄目だよ! ここは寝たら駄目なところ!」
私に引っ張られた真木くんはこれ幸いと眠ろうとするから、慌てて肩を揺すり、引っ張っていく。遅刻とまでは行かないけれど遅めの時間ではあるから、廊下は朝練終わりの生徒や、遅刻を免れた生徒たちで慌ただしい。でも、皆揃えるように同じ話題を口にしていた。
「またうちの近く、テレビ映ってたんだけど。そのうち私刺されるかも」
「ニュースマジ同じことしかしないよね。でもあの人、今度ドラマ出る人がキャスターしててさ、コメントしてたよ。怖いねって」
「本当に!? えー見ればよかった」
スマホを片手に、きゃっきゃと盛り上がっている話題は、今流行りのお菓子とか、お笑い芸人とか、そういう明るいものではない。
―― 晩餐川連続猟奇殺人事件、についてだ。連日テレビを騒がせているらしいその事件は、先生たちが登下校のときは気をつけるよう注意するくらい、今の私たちにとって身近な事件となっている。
学校に辿り着き、校門をくぐると真木くんは大きく欠伸をした。彼は目をこすりながら、そのままゆっくり瞼を閉じていく。足取りも重く、黒いスニーカーもずりずりと引きずってしまっている。
「真木くん、寝るなら教室まで我慢しないと。それに洋服も汚れちゃうし、ここまで来たんだから授業受けよう?」
「えぇ……疲れたよ……もう動きたくない」
真木くんは下駄箱まであと少し、というところでしゃがみ込んでしまった。 スニーカーが黒いからという理由で買った彼の背負ったリュックも、肩紐を最大限まで下げて背負っているので、地面とくっつきそうになっていた。その後姿は、小学生がアリを見つけてしゃがみこんだようだけど、私も彼も高校一年生なわけで、かなり目立つ。
昇降口へ目を向けると、生徒たちはさっさと靴を履き替え、朝練と皆が教室へ急ぐ中、ただ一人蹲る真木くんの様子は皆の視線を集めるには十分だ。体格のいいラグビー部や、サッカー部の男子たちが首を傾げながら校舎の中へと入っていっている。私はなんとか登校させようと、真木くんのの手を引っ張った。
「ね、下駄箱まで手繋いでてあげるから。行けそう?」
「……ありがと、よろしく……おやすみ……」
「真木くん駄目だよ! ここは寝たら駄目なところ!」
私に引っ張られた真木くんはこれ幸いと眠ろうとするから、慌てて肩を揺すり、引っ張っていく。遅刻とまでは行かないけれど遅めの時間ではあるから、廊下は朝練終わりの生徒や、遅刻を免れた生徒たちで慌ただしい。でも、皆揃えるように同じ話題を口にしていた。
「またうちの近く、テレビ映ってたんだけど。そのうち私刺されるかも」
「ニュースマジ同じことしかしないよね。でもあの人、今度ドラマ出る人がキャスターしててさ、コメントしてたよ。怖いねって」
「本当に!? えー見ればよかった」
スマホを片手に、きゃっきゃと盛り上がっている話題は、今流行りのお菓子とか、お笑い芸人とか、そういう明るいものではない。
―― 晩餐川連続猟奇殺人事件、についてだ。連日テレビを騒がせているらしいその事件は、先生たちが登下校のときは気をつけるよう注意するくらい、今の私たちにとって身近な事件となっている。