「真木くんどうしたの?」

「めーちゃんお疲れだから、りらっくすたいむ……」

「リラックスタイム……?」

「そう。あとね、明日一緒にお出かけしたい。文化祭の食べ物メニュー探ししたい」

 真木くんの持っていた雑誌は、インテリア雑誌からいつの間にかデート雑誌に変わっていた。彼はその雑誌をこちらに差し出しながら「遊びたい……」と、カフェのページを指で示す。

「じゃないと俺、秋眠するかもしんない……最近すごいねむぅだから、身体動かそうかなって……」

 あんまり動きたがらない、自分の部屋で過ごすときは絶対ベッドにしかいない真木くんが、自ら身体を動かそうとするなんて一大事だ。「どこかぶつけた?」「痛い所あるの?」と尋ねながら真木くんのだぶだぶの裾をめくったりズボンをまくったりしていると、「うー」と呻かれてしまう。

「俺がめーちゃんのこと……でえと誘うの……そんなにへん……?」

「いや、でも、真木くん動くの嫌いだよね……?」

「めーちゃんと動くのは好きだよ……歩いたり……お散歩したり……」

「同じ意味だよ……」

 真木くんは「そうかなぁ?」と欠伸しながら返事をして、目をとろんとさせ始めた。だめだ。お昼ごはんを食べて図書室に連れてきてしまったから、彼は活動の限界を迎えてしまっている。私が慌てて教室に戻る支度を始めると、彼が私の手を握った。

「こーして、お手々繋いで歩く……のが、一番幸せだもんね。ねぇ、めーちゃんは俺と歩くの……好きでいてくれる?」

「もちろんだよ」

「ほんとに……? よかかってくるの……面倒くさいなぁとか思わない……」

「思わないよ」

「なら、良いや……おやすみなさい……」

 真木くんはそう言って、目を閉じてしまった。私は慌てて肩を叩くけれど、彼は頭を伏せて「ねむです」としか答えない。

「起きて真木くん。あと十分で授業始まるよ」

「俺……机だから……真木くんじゃないでーす……」

「真木くんだよ。ほら」

「図書室では、お静かにだよ? めーちゃん」

 真木くんは「しぃー」と自分の口の前で人差し指をたててから、また眠りにつく。私はなんとか彼を揺すり起こし図書室を後にしたのだった。