「俺、何なんだよあいつって、すげえイライラしてた。俺が食わせてやってるみたいな顔しやがってって。俺が高校出たら見返してやるって……でも、あいつが仕事して、俺が家事とかしてて、あいつすげえ色々してくれてたんだなと思って……」

 沖田くんは、しゃがみこんでしまう。すると、カラカラ……と窓が静かに開かれる音がした。目を向ければ、興大くんやののかちゃんが不安気に沖田くんを見ている。

「にいちゃ、どうしたの?」

「どっか痛い……?」

 たたたっと二人は沖田くんに駆け寄ると、抱きついた。沖田くんは「大丈夫だよ」と安心させるように二人を抱きしめ返している。どうやら、食事は終わったらしく、おぼつかない手で真木くんが片付けをしていた。私はそっとその場を後にして、真木くんの手伝いを始める。

「ありがと真木くん。見ててくれて」

「別に……それよりお腹すいたから、早くおうち帰りたい……。通り魔いて危ないし……」

「そうだね……」

 沖田くんの話を聞くに、どうもお兄さんは犯人じゃないような気がしてならない。沖田くんのお兄さんが十八歳で姿をくらまして、沖田くんが高校生になった時に戻ってきたというのは、この家を借りるためだったんだろう。

 普通、弟たちがどうでも良かったら、戻ってこなかったはずだ。この家は、弟たちが大切で、頼りに出来ない大人たちから守りたかった証拠だ。

 だから犯人は、別にいる。

「大丈夫だよ」

 真木くんはお皿を洗いながら、抑揚のない声を発する。

「俺……昨日テレビで見たよ。沖田のおにーさん、公務執行妨害で逮捕で、とーりまでは捕まってないって。だからその間に犯人がなんかすれば、沖田のおにーさん、出てくる」

「犯人はもしかしたら、沖田くんのお兄さんに罪をなすりつけようとするかもよ」

 今、警察も世間も犯人が捕まったと安心している。だから今行動してしまえば、沖田くんのお兄さんの無実を証明する形になってしまうのだ。逆になにもしなければ、沖田くんのお兄さんのせいにできる。当然犯人は捕まりたくないわけだから、今はなにもしないだろう。

「きっとだいじょーぶだよ、沖田たちは、悪い子じゃないから」

「え……?」

「ん。それより文化祭、いいの? 沖田に話しないで」

「ちょっと、私一人で頑張ってみようと思うんだ。沖田くん、今大変だし」

「じゃあ、俺お手伝いする。めーちゃんお助け委員する」

 真木くんは、そう言いながらも半分瞼が閉じ始めている。私は慌てて洗い物を終えると、沖田くんの家を後にしたのだった。

◆◆◆

 沖田くんの家については、お母さんにメールをして、翌日に学校でだいちゃん先生に伝えた。高校生の私では、出来ることなんて限られている。それに、お金のことが関わっているだろうし、すぐに大人の人に伝えたほうが良いと思ったからだ。

 そしてだいちゃん先生はすぐに沖田くんの家の大家さんに連絡してくれたらしく、沖田くんのいない時は、興大くんとののかちゃんは大家さんに見てもらうことになった。そしてお母さんも、地域の子供について管轄しているところに連絡してくれた。ただ沖田くんが色々警察署で説明もしなきゃいけないらしく、彼は今度は仕事ではなく手続きや相談などで休んでいる。