「ののかちゃん。出来たよ……え?」
電子レンジで玉ねぎや人参、じゃがいもを加熱して、大慌てで作ったカレーリゾットを盛り付け振り返ると、視界に入ったのはうつ伏せになって呻く真木くんと、「えいえい!」と楽しそうに彼に乗るののかちゃんの姿があった。
バイクごっこをしているみたいだけど、年齢差があるはずなのに真木くんがいじめられているように見えてしまう。
「わーい! カレーだ! カレー!」
ののかちゃんはカレーを見た瞬間嬉しそうに真木くんから飛び降りた。「ぐえ」とカエルが潰れたみたな声で真木くんが呻く。
「真木くん、大丈夫……?」
「いじめられた……子供怖い……」
「えぇ……」
とりあえず、部屋の真ん中にあるテーブルに、ののかちゃんと興大くん、二人の為に作ったカレーリゾットを並べた。「どうぞ」と促すと、二人は「いただきます!」と声を揃えて食べ始める。
入ったときは、白い煙に包まれてよく分からなかったけど、部屋は二部屋、幼稚園の制服や作業着、そして沖田くんのものらしい制服がかかっているけれど、大人の服は全く見られない。壁には小さい子が描いた絵が飾られているけれど、そこに描かれているのは四人だけだ。多分、兄弟たちを描いているのだろう。
親御さんは、亡くなっている? でも、仏壇もそれらしい写真もない。どことなく目の前の家族に違和感を抱いていると、部屋の鍵が開く音がした。すぐにどたどたとけたたましい足音が近づいてくる。
「わりい、残業入っちゃって、ごめんな! 今夕食作るから――って、園村? 真木? 何でここに……」
「だいちゃん先生にお願いされて……、それで、その、炊飯器が黒焦げになってお腹すいたってののかちゃんが泣いてて、夕ご飯……勝手に作っちゃったんだ。ごめん……」
沖田くんはちらりと台所をのぞいて、いまだ洗っても焦げの取れない釜を見る。すると興大くんが「ごめんなさい。ご飯、焦げちゃって……」と俯いた。
「兄ちゃんこそごめんな。帰るの遅くなって……幼稚園午前で終わって、昼もパンだけだったもんな。園村も真木もありがとう」
「ううん。元気そうで良かった」
沖田くんは荷物を下ろし、洗濯かごに制服を入れ、さらに溜まっているらしい洗濯物も洗濯機に入れ始めた。冷蔵庫には手提げバッグを作る締切みたいなものも書かれていて、彼の生活が切羽詰まったものであることが分かる。