今度はなしづかアパートを目指して歩いていくと、さっきの青薬荘からちょうど20メートルほど歩いたところに、「なしづか」とかわいいポップ体で書かれた表札のあるアパートを見つけた。ポストを確認すると、「沖田」と名前の書かれた部屋を見つけた。202号室だ。階段を登っていくと、バン! と音を立ててちょうど202号室が開いた。
「お兄ちゃん! どうしよう! ご飯全部焦げちゃったよー! あれ? お兄ちゃんじゃない……?」
沖田くんが住んでいるらしい――部屋から出てきたのは、小学校低学年くらいの男の子だった。魚や動物のTシャツに半ズボン姿の彼は、私たちを見て驚いた顔をしている。
「えっと……沖田くん……私たち、沖田優希くんのクラスメイトなんだけど、お兄ちゃんまだ帰ってきてないかな……」
「お、お兄ちゃんコンビニ行ってて……」
「お買い物?」
「ううん。お仕事……えっと、えっと……」
男の子はもじもじして俯いてしまった。それと同時に部屋の中から焦げくさい臭いと、「おなか空いたよー! ごはんまだー!!」と、小さい子の泣き声が聞こえた。男の子は困った顔で目に涙を浮かべている。
「お、お姉ちゃんたち、お家の中に入ってもいいかな?」
「う、うん……」
私は足早に、「沖田」と表札がかけられている部屋へと入った。中は少し白く煙っていて、煙が濃くなっているほうへ進むと、煙を上げた炊飯器と、そのそばで「おなかすいたー!」と泣いている女の子を見つけた。私はすぐに煙を上げている炊飯器を流し台に置いて、窓を開いてから女の子に声をかける。
「この炊飯器、触った? 痛いところない?」
「う、うん……あれ、お姉ちゃんだれ……?」
「優希お兄ちゃんのお友達だよ。同じ学校に通っているの。ねぇ、あなたのお名前は?」
「ののか……」
「ののかちゃんかぁ! もう大丈夫だから安心して? 大丈夫だから」
頭を撫でると、ののかちゃんは泣き止んでいく。振り返ると、先程飛び出してきた男の子が、不安げな表情で真木くんの隣に立っていた。