「めーちゃんのせいで、俺は連れて行かれちゃったんだからね……めーちゃんが置いていったから……」

 真木くんの声は震えている。それでいてどこか縋るような声に、胸の奥がきゅっと詰まった。「置いていかないよ」と手を繋ぐと「置いていったもん」と私を見る。

「もう、置いていかないよ」

「嘘つかないでね」

「大丈夫」

 真木くんの手をひいて、私は教室へと向かっていく。心なしか彼は、私に身を預けるようにして歩いていた。

◆◆◆

 真木くんが誘拐された日、私は一人で学校から帰っていた。小学校二年生の、赤いもみじが少しずつ木から離れていくような、そんな何気ない秋の日だった。授業は、一時間目が算数で、二時間目が国語。三時間目が家庭科、四時間目は体育で、男女別れて着替えをしているときに、クラスメイトの女の子に言われたのだ。

「真木くんって芽依菜ちゃんのことばーっかり優先するけど、ただ家が隣なだけだよね? ずるいよ」

 その子は、クラスでも目立つ子だった。ピンクの髪留めをしていて、服装だっていつもオシャレだった。一年生の頃、雪の日はその子だけが大人が履くみたいなかっこいいブーツを履いて登校していて、クラスの女の子達の憧れだった。

 ただでさえ、どう返していいか分からない言葉が、周りからの非難の目も感じてしまい、もっと口から出なくなった。でも、きっと真木くんのことが大好きだったその子にとって、ただ家が隣なだけで理由なく隣に立っている私は、悪でしか無かったのだ。

「ずるだよ芽依菜ちゃん! 真木くん独り占めして! 私も真木くんと帰りたいから、今日は芽依菜ちゃん一人で帰って!」

 私は彼女から発せられた言葉に、頷くことしか出来なかった。それから給食で何を食べて、五時間目の授業をどんな風に受けたのか分からない。

 放課後真木くんに「先に帰るね!」とだけ伝えて別れて、私は今までずっと二人で帰っていた道のりを、一人で帰った。家で、私は真木くんのこと、明日からも一人で帰ったほうがいいだろうと漠然と考えていたその時、真木くんは、誘拐された。

 警察の人の話によれば、放課後一人で歩いていたところ、車で攫われ三時間ほど連れ回されたらしい。