「ありがとう……めーちゃん……。地面にお洋服が落ちたから、今日体育出なくていーい?」
「出なきゃ駄目だよ! 出席点ちゃんと貰っておかないと、真木くん進級できなくなっちゃうよ」
「えぇ……めんどい……」

 彼のぼんやりとした欠伸を眺めている間に、停留所にバスが滑り込んでくる。私たちは一緒にバスへ乗り込み、奥の窓際の席に座った。閉所が苦手な彼のため、私は座席に座って早々に窓を開く。閉じられ籠っていた空気がふわっと抜け、十月の涼しい風が入ってきて、呼吸がすっと楽になった。

 私はいつも、すぐ窓が開けるよう、そして真木くんが窓から落ちたりしないよう窓際に座っている。ついでに言えばバスに乗って揺れても大丈夫なよう、彼の鞄の持ち手も握ったままだ。

 同い年、しかも高校生同士なのに世話を焼きすぎ、と言われてしまうかもしれないけど、本当に真木くんは生きるのに不器用だから、私が気を付けないと彼は死んでしまう。

 歩けば転び、転ばなければ彼のゆったりとした足取りは、自然と車や自転車に向かう。階段なんて何度も落ちかける。靴紐は秒で解けるし傘の差し方も下手で、気付けば両肩がびちゃびちゃになる。昨日の雨でも凄まじく濡れていた。なにか物を落とすのも日常茶飯事だ。

 基本飲み物は零しお菓子の袋は破裂させる。とにかく何でもかんでもひっくり返すし、料理も裁縫も芸術も何もかも壊滅的で、特に料理は指じゃなくて手首を切り落としかけるくらいだ。裁縫も酷い時は服にいくつも針が刺さっている。

 この間の科学の実験だって、危うく教室を爆破しかけたのだ。

 その脱力癖、面倒くさがり、不器用さは年々加速していくばかりで、目が離せない。

「もうすぐ、文化祭だねぇ」

 ふわぁと欠伸をしながら、真木くんが車窓に目を向けた。真っ赤に染まった紅葉や鮮やかな黄色のイチョウも、徐々に端から枯れて冬の訪れを報せている。

 来月頭に開かれる文化祭には、枯葉が結構落ちているかも知れない。真木くんがよく葉っぱで足を滑らせるから、この時期はそわそわして好きじゃない。

「おだんご食べたい、あと、親子丼も、ソーダも飲みたいなぁ……めーちゃんはなに食べたい?」
「なんだろう、たこ焼きとかかな?」

 でも、たこ焼きは真木くんが口の中をやけどするから、やっぱりアイスとかがいいかもしれない。あんまり熱くなくて、程よくぬるい食べ物だ。つまらせる心配のない。そして真木くんは、たまにポテトチップスでも口の中をズタズタにしてしまうから、そういう食べ物が一番いい。

 答えを変えようとすると、真木くんはすやすやと眠っていた。ぎゅっと私の手をにぎる手は子供みたいで、長いまつげの寝顔は女の子みたいだ。私はせめて真木くんが今ぐっすりと眠り、授業中はちゃんと授業を受けてくれるといいな……と願ったのだった。