お母さんが廊下の先からやってきて、東条さんが私とお母さんを見比べる。「母です」と私は伝えた後、お母さんに近寄った。

「実は、真木くんが間違えて逮捕されちゃって……」

「真木くんが?」

 お母さんは怪訝な顔で真木くんを見た後、東条さんに「何があったの?」と問いかける。東条さんが「自分が、間違えて署に連行してしまい……申し訳ございません」と頭を下げた。

「事情は後から聞くけど……、えっと、あの子は芽依菜の知り合い?」

「沖田くん、同じクラスの……文化祭委員一緒にするって言ってた……」

「ああ、容疑者の弟が……」

 私が沖田くんについて説明すると、お母さんはそう呟いて、彼へと近付いていく。

「ごめんなさい。お兄さんには今捜査中の事件の話が聞きたくて、しばらく署にいてもらうことになると思う。お兄さん以外の大人のひとの連絡先は分かる?」

「じいちゃんと、ばぁちゃん……でも、新幹線で来なきゃいけないから、迎えには……」

「分かった。とりあえず、君の帰宅には責任をもつから、こっちに来てもらってもいい?」

「はい……」

 沖田くんはがっくりと肩を落としながら、お母さんについていく。お母さんは東条さんに、「二人を家まで送り届けてもらえる?」とお願いして、沖田くんを伴い署の奥へと歩いていった。

「では、パトカーで家まで送るので……」

 東条さんが、バツが悪そうにこちらへ振り返る。そうして私たちは、警察署から家へと帰ることになったのだった。
◆◆◆

「今日は大変だったね真木くん……」

 あれから、私たちは家の前まで送ってもらって、いつもより三時間ほど遅れて帰ってきた。いつもは暗闇が嫌いな真木くんの為、暗くなる前に帰るようにしているけれど、もう空はすっかり群青色に染まっている。頼りなさげな外灯と、ぽつりぽつり点いている住宅街の光だけが、物の輪郭をはっきりさせていた。

「うん。手錠やられたとこ、いたい……」

 真木くんはさっきからずっと腕をさすっている。後で保冷剤とかで冷やして、クリームも塗っておかないと。あと、治った後は掻いたりしないよう、包帯を巻いたほうが……。あれこれ真木くんの手当てに就いて考えていると、彼は「めーちゃん」と、甘えるみたいに名前を呼んできた。