それから、私たちはいつも一緒だった。真木くんはサッカーもバスケットボールも上手で、頭も良かった。
テストはいつも百点満点で、先生の問題のミスもすぐに見抜いてしまう。クラスの子たちが喧嘩をすると、さっと間に入って解決するような、優しい皆のヒーローだった。クラスの女の子たちは皆真木くんのことが好きで、皆彼を遊びに誘ったり、給食のあげパンをあげようとしていた。
でも真木くんは、いつだって私と遊んでくれていた。彼が遊びに誘われ、断るときは必ず優しい言い方をするから、私ばかり真木くんと遊んで不公平だと言われたことは、あまりなかったように思う。
そんな完璧だった真木くんは、今、命がけで高校に通学している。
「真木くん、そっち車道だから、ガンガン車通ってるから!」
もう十月に入ったというのに残暑が残る通学路、バスを待ちながら幼馴染である真木くんの紫パーカーの袖を引っ張る。
周りで私たちと同じようにバスに並ぶ会社員や学生は、いつもどおりの光景にやや呆れ顔だ。一方、ふらふらして車道に出かけていた真木くんは「あぁ」とのんびりした声を出すだけ。長い黒髪からのぞく彼の気怠げな瞳はどこか胡乱で、ぼーっと視線は落ちている。姿勢も悪く、かつてヒーローのように堂々と、ピンと伸びていた背筋はどこにもない。
「え……、あー、そうだ、ねー……。だる……ねむ……おやす……、おっと」
真木くんは歩道側に下がろうとして、歩いていた工事の人とぶつかってしまった。作業着を来てヘルメットを腰に下げた金髪の男の人は、「いってえな」と呟く。
「す、すみません!」
私が慌てて謝ると、工事の人は舌打ちをして去っていく。真木くんも「ごめんなさい……」と続くけれど、もう工事の人の姿は見えない。
「あ、真木くん、体操着落ちちゃってるよ!」
気がつけば、真木くんが持っていた袋が落ち、体操着とジャージが地面に飛び出していた。一方、信号を待つ白いワゴン車の後ろから頭を出すようにバスが見えていて、私は慌てて体操着とジャージを拾い、袋に詰める。