「え? ま、待ってください、なにかの間違いです! 真木くんが一体なにを?」
「は? あれ、人質……?」
警察官の人が、眉間にシワを寄せた。なんで真木くんが逮捕なんて……? どこかに突っ込んで器物破損とか、線路の中に間違って入っちゃったとか、逮捕されるとしてもそういうことのはずだ。公務執行妨害なんて絶対しない。絶対に誤解している。
「君、こいつとどういう関係?」
「お、幼馴染です。高校が一緒で……それで、あの、真木くん、真木くん何もしてないはずです。絶対、誤解で――」
なんとか真木くんを離してもらう為、説得を試みようとすると、警察官の人は「ひとまず君も事情を聞くから」と、全く取り合ってくれないまま、私たちは警察署へ連れられてしまったのだった。
◇◇◇
「犯人逃しただけじゃなく見間違えて市民に手錠までかけた挙げ句、警察署に連行するなんて何やってんだお前は!」
そう言って、私の前に座るスーツの女の人が机を叩き、物々しい音が応接室に響く。女の刑事さんの隣には、先程真木くんを捕まえた警察官の人が立っていて、じっと頭を下げていた。
「本当に、申し訳ございませんでした。迷惑をかけてしまって……」
あれから私と真木くんは警察官によって警察署に連れてこられた。けれど到着して早々に、今目の前で申し訳なさそうにする女の人の手によって、真木くんの手錠は外され、私たちは応接室に通された。状況から察するに、真木くんの逮捕は間違いらしい。彼は自分の腕をじっと見つめ、手錠をかけられていたところをさすっている。
「東条も謝りなさい」
「ご、ごめんな、きみたち」
「馬鹿じゃないの? 貴方それ、自分より年上の相手を間違えて取り押さえて! 手錠をかけて警察署に無理やり引っ張り込んだ時も同じように謝るの?」
「それは……」
さっき真木くんを捕まえた警察官は、東条さんというらしい。東条さんはばつが悪そうに「この度は、申し訳ございませんでした」と頭を下げる。
「気にしなくて、いーです。痛かったけど……」
真木くんは私の袖をきゅっと握りしめた。そして窺うように東条さんを見ている。一方、東条さんの上司らしい女の人は、「もし、学校で今日のことが他のお友達に見られて困ったことがあったら、すぐ言ってね。ここに連絡先が書いてあるから」と、名刺を差し出してきた。
女の人は、乃木さんというらしい。真木くんは乃木さんの名刺を受け取ると、「失くしちゃうからめーちゃん持ってて」と渡してきた。そのやり取りに、目の前の二人は怪訝な顔をする。私は慌てて、「失くし物が多くて、他意はないんです」と付け足した。