「ん? 沖田くんがどうかしたの?」

「あんま、近く行かないで……めーちゃん朝、近かったよ、沖田と」

 じっとりと、拗ねた目で真木くんは私を見た。「分かった」と頷くと、「分かってない」と唇を尖らせる。

「分かってないよ……なんにも。めーちゃん、次沖田と近い近いしたら、俺、怒っちゃう……」

「えぇ、で、でも、文化祭委員で一緒に仕事するんだよ? それに、言うほど近いかな……」

 思い返してみても、隣の席になった程度にしか沖田くんとは近付いていない。しかし真木くんは「むー」と、抗議するように私の袖を握りしめる。

「もう、おうち帰る。めーちゃん分かってくんない……」

「えっちょっと真木くん!」

 真木くんは立ち上がると、私の手を取りどんどん歩きだした。なんだろう。今日の彼は機嫌が悪いように思う。朝も様子が変だったし……。あやすように「真木くん、ちょっと話しよう? 止まって、ね?」と声をかけていると、「やあだ」と間延びした返事がかえってきた。

「真木くん、なんか沖田くんに対してだけ、ちょっと変だよ」

「変じゃないよ……」

「だって、今までそんなこと一度も言ってこなかったし……」

「沖田が変だからだよ……」

「沖田くんになにかされたの?」

「されてない。めーちゃんに意地悪されてる……いじめられてる……うぅ」

 そう言って、彼は立ち止まる。気づけば公園を出ていて、辺りを見渡すと住宅街が広がっていた。この場所は来たことがない。公園からはそう遠くないはずだけど、石造りの塀や、トタン屋根のアパートのどれもに見覚えがなくて、漠然とした不安を抱いた。

「真木くん、おうち帰ろう?」

「ここ泊まる」

「真木くん……」

「泊まるの……」

「とにかく一度公園に戻ろう?」

 彼の手をしっかり握り、踵を返そうとすると、ふいに握っていた手が引っ張られた。

「芽依菜」

 ぼそっと、いつもより低い真木くんの声が耳をかすめる。それと同時に私たちの後ろからパーカーを着た男の人が通り過ぎて、すぐに「待て!」と、こちらに向かって警察官の人が駆けてきた。状況も把握できぬまま、邪魔にならぬよう立ち止まっていると、警察官は、あろうことか真木くんの腕を掴んで取り押さえてしまった。
「公務執行妨害で現行犯逮捕! ったく、手間かけさせやがって」

 警察官の手によって、真木くんの腕にがちゃりと手錠がかけられる。私は一気に血の気が引いた。