エクレア、シュークリーム、ヨーグルト。チーズタルト、プリンにゼリー。

 様々な種類のスイーツに囲まれるという、甘いもの好きならば大喜びしそうな状況。コンビニでバイトをしていると、そういう状況になることも少なくない。
 まさに今、届いたばかりの洋菓子たちを冷蔵ケースに並べている僕のように。

「最近、牛乳プリン流行ってるのかな」
「あー、俺も思った。やたらと減りが早いよな。発注数も倍くらいだし」

そういえば、胡桃も牛乳プリンが好きだって言ってたっけ。対して莉桜は、硬めのカラメルプリンがお好みとのこと。同じプリンでも、違いが出るのはおもしろい。

「なあ、莉桜の彼氏ってどんな人? 拓実の知り合い?」

 仲良くなった僕らだけど、莉桜はあまり恋人の話をしたがらない。僕から見ると彼女は隙のない〝完璧〟に近い存在で、そんな莉桜が好きになった相手はどんな人なのだろうと気になったのだ。

 僕と背中合わせで、おにぎりの品出しをしていた拓実は「ああ」と応える。

「中学時代の二個上の先輩」

 莉桜はたまにデート中にこのコンビニに寄る。彼氏はいつも車の中で待っているので、相手の顔を見たことはない。だけどきっとかっこいいんだろうと思う。
 でもさ、女の子ひとりに買い出しに行かせて自分は車の中というのは、どうかと思ってしまうけれど。

「成績優秀な学級委員に、大学生の彼氏かぁ。デートは平日の夜で、車移動。当たり前かもしれないけど、学校での莉桜とは別人みたいだよな」

 綺麗なメイクに、大人っぽい私服とヒール。似合っていないわけではないけれど、彼女のことを知れば知るほど、ちぐはぐに感じてしまうのも正直なところだった。

「背伸びしてるんだろ、はやく大人になりたいって」
「夜遅くまで出歩いていて、親とか平気なのかな」
「あいつんち、共働きで毎晩遅いから」

 そうだったのか。ずいぶんと親しくなった僕らだけど、まだまだ知らないことは多い。

 拓実と莉桜は、確かにお互いに恋愛感情は抱いていなさそうではあった。莉桜には彼氏がいるし、拓実は拓実で女の影が多い。それでもこのふたりの間には、特別な〝なにか〟がある。僕はそう感じていた。

「莉桜のこと美人だなーとか、いいなーとか、思ったことないの?」

 棚の中に、賞味期限の近づいてきている牛乳プリンを見つける。
 上がりの時間になっても残ってたら、僕が買っていこう。そしてちょっと遠回りをして、胡桃の家に届けてやるのもいいかもしれない。夜遅くったって、玄関の前でプリンを渡すくらいなら許されるだろう。

「そういう風に、考えたことがない」
「こんなに近くにいるのに?」
「こんなに近くにいるから、かもしれないけどな」

 莉桜と拓実の関係は、そばで見ている僕からしても、本当に不思議な関係だった。

 腐れ縁という言葉を使ってはいるものの、ふたりの間には確かに信頼関係がある。莉桜は僕には言わないような一見失礼なことも、拓実には平気でぶつけるし、女の子には常にジェントルな拓実は、莉桜に対しては完全に素の状態で接しているように見える。

「男と女の友情、ってやつ?」
「うーん……。個人的には、そういうのも一般的に存在はするんだとは思う。葉は?」
「僕もそう思う」

 性別など関係なく、人と人との間には友情が芽生えるものだし、恋にも落ちるものだ。

「だけど俺にとって莉桜って、友達とも少し違うんだよなぁ」
「じゃあ、なに?」
「改めて聞かれると、俺もよくわかんない。俺と莉桜の関係ってなんなんだろう」

 腐れ縁というのはふたりの関係を表わす、都合のいい言葉だったのかもしれない。友情とも違うし恋とも違う。特別だけど恋人になりたいとは思わなくて、だけど一番近い距離にいる理解者で。

「まあでも、〝特別〟ってことは確かだな」

 ふはっと笑った拓実に、僕は眩しさを感じた。それと同時に、その言葉がすとんと僕の中に落ちる。

 恋でも友情でもない、〝特別〟。

 それが、今の莉桜と拓実の関係を表わす、ぴったりの言葉なのだ。

「そっか。なんかすごい納得した。こういうのを〝腑に落ちる〟って言うんだな。……っていうか、腑ってなに?」