あのあと、僕と胡桃は病院へと戻った。例の医者がなにか言ってきたら反撃してやろうと息巻いていたのだが、特に何も言われることはなかった。
 川口さんがフォローを入れてくれていたと、後に看護師さんが教えてくれた。

「一応確認なんだけど、莉桜は本当に大丈夫? 自分の両親が経営する病院なわけだし、無理には──」
「なに言ってんの? やるに決まってるでしょ。確かに大人には大人の都合があるのかもしれない。だけどわたしたちにだって、譲れないものがある」

 病院での出来事に、莉桜は激怒していた。大事な親友は見世物じゃない。データが重要なのはわかるけど、胡桃はそのための実験台なんかじゃないのだと。

「胡桃の体調が悪くて、っていう検査でもないしな」

 スウェット姿の拓実は、腕を組みながら莉桜の意見に同意する。

 夜明け前に、胡桃のことを迎えに行く。それは、僕ら四人の約束を果たすためのものだ。 
 胡桃と僕が戻った頃には、拓実と莉桜もちょうどそこに到着したところで、目を赤く腫らした胡桃とびしょ濡れの僕を見て、言葉を失くしていた。

「莉桜、本当に泊まり込みするわけ?」
「大丈夫。届けるものがあるとか言えば、守衛だって顔パスで通してくれるし。そのあと職員用の仮眠室に入っちゃえば朝まで誰にも会わずに済む。明け方に院長の娘が男二人と救急外来から入ってきた方が不自然でしょ」

 確かに、と拓実と僕は頷くしかなかった。

 夜の狭間病院は、意外とセキュリティが甘い。というのは、病院の一人娘である莉桜の言葉だ。
 救急搬送の受け入れも行っている狭間病院では、救急の出入り口は二十四時間開放されているとのこと。また、深夜から明け方の時間帯は、看護師の見回りに二時間に一度と決まっているので、そこさえ抑えれば看護師と鉢合わせする可能性も低いらしい。

「でもまさか、葉がこんな大胆な計画をたてるとはなぁ」

 一通り計画を練ると、拓実が肩を上下させながら感慨深そうにそう言った。

「葉っておちゃらけている陽キャラに見せかけて、実は結構思慮深い性格だもんね」

 莉桜の言葉に、僕は内心驚いていた。胡桃だけではなく、このふたりも、しっかりと僕のことを見ていてくれたのだと改めてわかったからだ。

「日の出時刻は六時八分。天気予報は、晴天だ」

 僕の言葉に、莉桜と拓実が力強く頷いた。