「急遽入院なんて、びっくりさせちゃったよね。みんな、ごめんね」
薄いピンクの病衣をまとった胡桃は、彼女が悪いわけではないのに、謝罪を口にした。
狭間病院にある、脳神経外科病棟の一室。学校帰りの僕たち三人は、お見舞いに訪れていた。
「検査入院だって?」
「そうなの、急に決まっちゃって」
ベッドの上にはいるものの、胡桃の様子はいつもとなんら変わらない。顔色もいいし、「病院にいると体がなまっちゃう」なんて、腕をぶんぶんと回している。その様子に、僕はちょっとだけ安堵の息を吐き出した。
胡桃の入院は、一週間ほどらしい。ということは、二日後の卒業式はまだ入院中ということになる。
「あさってだけでも、どうにかならないのか?」
拓実の言葉に、莉桜と僕は胡桃を見つめる。二日後は、卒業式だ。
しかし彼女は困ったように、ゆるりと笑って首を振った。
「わたしからもお願いしてみたんだけどね。どうしてもその日に検査をしないといけないらしくて。わたしの身体のためのものだから、仕方ないよね……」
学生である僕らから見れば、容態が悪いわけではない胡桃の検査をその日にしなければならない理由がわからない。だけどきっと、病院には病院の事情があるのだろう。
ここに来るまでに、たくさんの入院患者とすれ違ってきた。ここにいるのは、胡桃だけではないのだ。それでもやっぱり、どうにかならないものかと考えずにはいられない。
「それより、拓実。卒業式の日、戸塚ちゃんに告白するんでしょ?」
胡桃はいつものように明るい笑顔で、話題を変える。それは、彼女の優しさだ。
「そうだよ、わたしたちの応援を一心に受けて、バシッと勝負決めないとね!」
莉桜は一瞬の間を開けてから、その話を明るく広げた。
「拓実の告白シーン、胡桃にも中継しないとな」
僕が両手の人差し指と親指でカメラのファインダーを模し、拓実に向ける。
「おいお前ら……そういうのを盗撮って言うんだからな?」
おもむろに眉を寄せた拓実がそう答え、それから僕らは声をあげて笑った。
誰もみな、本当におもしろかったわけじゃない。だけど笑うことしかできなかった。
僕らはお互いのことが大好きだった。大切で、愛おしかった。だけど、まだまだ青い僕たちは、こうして表面的に笑うことくらいしか、胡桃の想いを受け止める方法を知らなかったのだ。
はしゃぐふりをすることで、心の中にできてしまった空洞に蓋をして。看護師さんに注意されてもなお、僕たちはからっぽな笑い声で、真っ白な病室を、必死になって埋め尽くそうとしたのだった。
薄いピンクの病衣をまとった胡桃は、彼女が悪いわけではないのに、謝罪を口にした。
狭間病院にある、脳神経外科病棟の一室。学校帰りの僕たち三人は、お見舞いに訪れていた。
「検査入院だって?」
「そうなの、急に決まっちゃって」
ベッドの上にはいるものの、胡桃の様子はいつもとなんら変わらない。顔色もいいし、「病院にいると体がなまっちゃう」なんて、腕をぶんぶんと回している。その様子に、僕はちょっとだけ安堵の息を吐き出した。
胡桃の入院は、一週間ほどらしい。ということは、二日後の卒業式はまだ入院中ということになる。
「あさってだけでも、どうにかならないのか?」
拓実の言葉に、莉桜と僕は胡桃を見つめる。二日後は、卒業式だ。
しかし彼女は困ったように、ゆるりと笑って首を振った。
「わたしからもお願いしてみたんだけどね。どうしてもその日に検査をしないといけないらしくて。わたしの身体のためのものだから、仕方ないよね……」
学生である僕らから見れば、容態が悪いわけではない胡桃の検査をその日にしなければならない理由がわからない。だけどきっと、病院には病院の事情があるのだろう。
ここに来るまでに、たくさんの入院患者とすれ違ってきた。ここにいるのは、胡桃だけではないのだ。それでもやっぱり、どうにかならないものかと考えずにはいられない。
「それより、拓実。卒業式の日、戸塚ちゃんに告白するんでしょ?」
胡桃はいつものように明るい笑顔で、話題を変える。それは、彼女の優しさだ。
「そうだよ、わたしたちの応援を一心に受けて、バシッと勝負決めないとね!」
莉桜は一瞬の間を開けてから、その話を明るく広げた。
「拓実の告白シーン、胡桃にも中継しないとな」
僕が両手の人差し指と親指でカメラのファインダーを模し、拓実に向ける。
「おいお前ら……そういうのを盗撮って言うんだからな?」
おもむろに眉を寄せた拓実がそう答え、それから僕らは声をあげて笑った。
誰もみな、本当におもしろかったわけじゃない。だけど笑うことしかできなかった。
僕らはお互いのことが大好きだった。大切で、愛おしかった。だけど、まだまだ青い僕たちは、こうして表面的に笑うことくらいしか、胡桃の想いを受け止める方法を知らなかったのだ。
はしゃぐふりをすることで、心の中にできてしまった空洞に蓋をして。看護師さんに注意されてもなお、僕たちはからっぽな笑い声で、真っ白な病室を、必死になって埋め尽くそうとしたのだった。