「夏だー!」

 ミンミン、シュワシュワ、ジジージジー。

 七月初旬。今年は例年よりも暑くなるのが早いらしい。蝉たちが我先にと大声で鳴く季節がやって来た。僕の一番好きな、夏らしい夏だ。
 最近ではアイスキャンディもひとつでは物足りず、僕は両手に一本ずつ持ち交互に食べる、しかも溶ける前に食べきるという技を習得していた。ちなみに他の三人は、今までと変わらず一本ずつしか食べていない。よく足りるよなぁ。

「今年の夏祭り、行くだろ?」

 夏といえば祭りだ。陽気なお囃子の鳴り響く中での提灯の明かり。浮足立ったみんなの表情に屋台の香ばしい匂い。最後、夜空に打ち上がる花火がこれまた綺麗でさ。この素晴らしいイベントに、今年は四人で参加できるなんて夢のようだ。
 胡桃と莉桜は浴衣を着てくるのだろうか。それなら僕たちも合わせて浴衣を着るのもいい。バイト代が入ったばかりだし、週末に買いに行こうか。

 アイスキャンディを口に入れたときだった。

「俺、パス」

 聞き間違いかと思ったのは、多分僕だけじゃないと思う。胡桃も莉桜もきょとんとした表情で、その言葉を放った拓実を見ている。

「……え、なんで?」

 わざわざ約束なんかしなくても、一緒に行くものだと思っていた。「葉は祭りとか好きそうだよなぁ」なんて苦笑いしながらも、浴衣選びに付き合ってくれると思いこんでいたのだ。きっと僕の言葉は、拙いカタコトのような響きを含んでいたと思う。

「彼女できたから」

 ミンミン、シュワシュワ、ジジージジー。
 ぼと、と僕のスニーカーにソーダ味のアイスが落ちた。